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案件5.硝子の右手
25:お化けの学校8
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「相変わらず、お優しい解釈で」
「おい、呪殺屋」
取り付く島もない態度に行平が声を上げると、呪殺屋は飄々と入口を指さした。
「お優しい話の続きは、あの先生としなよ。呼ばれるのは今か今かってそわそわしてるから。俺が落ち着かないんだよね。あの人の気配、うるさくて」
「呪殺屋」
「というわけで、俺は帰るから。あとはもういいでしょ」
これ以上余計な話に巻き込まれるのはごめんとばかりに、呪殺屋はすたすたと出入口のほうへ向かっていく。
止める間もなくドアを引いて、時岡になにかを告げる。自分の役目は終わりと、入ってきた時岡と入れ違いに本当に帰ってしまった。しゃん、しゃん、と鳴る錫杖の音がどんどんと小さくなっていく。
「あの、滝川さん。終わったとお聞きしたのですが」
「すみません」
時岡に尋ねられて、慌てて彼女に意識を向け直す。
「信じがたい話だとは思うのですが、実は……」
雪奈の話を真摯に受け止めた彼女なら、頭ごなしに否定はきっとしないだろう。
そう信じて、行平は、この教室に起こっていることを率直に伝え始めた。
こどもたちが「こっくりさん」を行ったことによって、さまざまな霊が迷い込んでいること。
つい先ほど、その霊と話をしたこと。幸い、その霊は悪霊ではなかったけれど、これからもその「幸い」が続くとは限らないこと。
子どもたちが安心して通うことができるようにするためにも、迷い込んだ霊をきちんと成仏させてやりたいと思っていること。
そうして、同じようなことを繰り返さないためにも、子どもたちに、しっかりと伝える場があればいいと考えているということ。
神妙に話を聞き終えた時岡が、にこ、とほほえむ。
「ありがとうございました。お話もよくわかりました。私のほうから、一度、校長に掛け合ってみます。このままで済ませるわけにもいきませんから」
「すみません、先生も大変だとは思いますが」
「いえ。もともと私が頼んだことですし、学校内外でいろいろな意見があるだろうことは重々承知していますが、私個人の意見としては、滝川さんが仰るようにさせていただくことが一番良いと思いました」
はっきりと言い切った彼女の強さに、行平はほっとする思いだった。
たとえ、掛け合った結果がうまく行かずとも、このクラスに在籍する子どもたちは、きっと大丈夫だろうと思ったのだ。
――俺のときにも、こんな先生がいたらよかったのにな。
そんなことまで思ってしまう始末だ。よろしくお願いします、と行平はもう一度深く頭を下げた。
「それにしても」
昇降口まで行平を見送った時岡が、ふとというふうに口を開いた。
「滝川さんは優しい解決策を見つけてくれるんですね。ゆきちゃんも安心していたし。滝川さんに頼んで本当によかったです」
「いや」
決まり悪く、頭を掻く。
「それは自分ではなく、呪……神野のほうです」
ぱちくりと瞳を丸くした時岡に、ぺこりとお辞儀を返して事務所に向かって歩き出す。
日はとうに暮れていて、うっすらと丸い月が見え始めていた。
「おい、呪殺屋」
取り付く島もない態度に行平が声を上げると、呪殺屋は飄々と入口を指さした。
「お優しい話の続きは、あの先生としなよ。呼ばれるのは今か今かってそわそわしてるから。俺が落ち着かないんだよね。あの人の気配、うるさくて」
「呪殺屋」
「というわけで、俺は帰るから。あとはもういいでしょ」
これ以上余計な話に巻き込まれるのはごめんとばかりに、呪殺屋はすたすたと出入口のほうへ向かっていく。
止める間もなくドアを引いて、時岡になにかを告げる。自分の役目は終わりと、入ってきた時岡と入れ違いに本当に帰ってしまった。しゃん、しゃん、と鳴る錫杖の音がどんどんと小さくなっていく。
「あの、滝川さん。終わったとお聞きしたのですが」
「すみません」
時岡に尋ねられて、慌てて彼女に意識を向け直す。
「信じがたい話だとは思うのですが、実は……」
雪奈の話を真摯に受け止めた彼女なら、頭ごなしに否定はきっとしないだろう。
そう信じて、行平は、この教室に起こっていることを率直に伝え始めた。
こどもたちが「こっくりさん」を行ったことによって、さまざまな霊が迷い込んでいること。
つい先ほど、その霊と話をしたこと。幸い、その霊は悪霊ではなかったけれど、これからもその「幸い」が続くとは限らないこと。
子どもたちが安心して通うことができるようにするためにも、迷い込んだ霊をきちんと成仏させてやりたいと思っていること。
そうして、同じようなことを繰り返さないためにも、子どもたちに、しっかりと伝える場があればいいと考えているということ。
神妙に話を聞き終えた時岡が、にこ、とほほえむ。
「ありがとうございました。お話もよくわかりました。私のほうから、一度、校長に掛け合ってみます。このままで済ませるわけにもいきませんから」
「すみません、先生も大変だとは思いますが」
「いえ。もともと私が頼んだことですし、学校内外でいろいろな意見があるだろうことは重々承知していますが、私個人の意見としては、滝川さんが仰るようにさせていただくことが一番良いと思いました」
はっきりと言い切った彼女の強さに、行平はほっとする思いだった。
たとえ、掛け合った結果がうまく行かずとも、このクラスに在籍する子どもたちは、きっと大丈夫だろうと思ったのだ。
――俺のときにも、こんな先生がいたらよかったのにな。
そんなことまで思ってしまう始末だ。よろしくお願いします、と行平はもう一度深く頭を下げた。
「それにしても」
昇降口まで行平を見送った時岡が、ふとというふうに口を開いた。
「滝川さんは優しい解決策を見つけてくれるんですね。ゆきちゃんも安心していたし。滝川さんに頼んで本当によかったです」
「いや」
決まり悪く、頭を掻く。
「それは自分ではなく、呪……神野のほうです」
ぱちくりと瞳を丸くした時岡に、ぺこりとお辞儀を返して事務所に向かって歩き出す。
日はとうに暮れていて、うっすらと丸い月が見え始めていた。
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