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悪役令嬢編
20.幕間(前編)
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裏庭で遭遇したメイジーは、パーティーのことを改めて謝罪したサイラスに、とんでもないと首を振った。強くなった日差しがきらりと彼女の金色の髪を照らす。
「こちらこそ、申し訳ございません。ご体調がよろしくなかったとオリヴィアさまからお聞きしましたが。ご無理をされていたのかと気になっていたんです」
眉を垂らしたメイジーが、それに、とサイラスを安心させる調子で言い足した。
「帰りはオリヴィアさまとご一緒に送っていただきましたので」
なるほど。ハロルドの言ったとおり、すべてオリヴィアが体裁を整えたらしい。そう納得し、サイラスはメイジーの求める顔をつくった。
「オリヴィア嬢とご一緒だったのですね。安心しました」
「以前にも言ったかもしれませんが、実際のオリヴィアさまはとても素敵な方ですね。率直に物事をお話しになるので気の弱い方には恐ろしいと映るのかもしれませんが」
「気の弱い人間だと恐ろしいと思うような話を?」
「そういうわけではないのですが。……あの、もしかして、地下パーティーのことを気にしていらっしゃるのですか?」
地下パーティーという単語で素直に声を潜めたメイジーに、サイラスは応とも否とも取ることのできる笑みを浮かべた。
エズラが主催する地下パーティー。オリヴィアがそのパーティーにメイジーを半ば無理やり参加させ、危害を加えようとする。そんな筋書きがメイジーの知る乙女ゲームにあることは、以前、メイジー本人から聞いていた。
その行動が、ハロルドとの婚約破棄の決定打になるのだということも。現実では起こらないようでなによりだとメイジーは笑っていたが、エズラが主宰する地下パーティーは実在する。そうして、オリヴィアが幾度を参加をしていることも、サイラスは知っていた。
ジェラルドの誕生日パーティーで話していたのも、おそらくは地下パーティーのことだろう。
「殿下の婚約者ですし、昔から知っている相手なので」
「そうですわよね。ですが、ご安心ください。きっと大丈夫だと思いますわ」
言葉どおりの調子でにこりとほほえみ、メイジーは打ち明けた。
「実は、帰りの馬車で地下パーティーのお声かけはいただいたのですが。会話の流れの中で、という雰囲気でしたし、強要されるようなこともありませんでしたので」
「そうですか」
「それに、実はゲーム内では、それ以前にもいろいろと問題がありまして。地下パーティーのときはレオさんは謹慎処分を受けていらっしゃる状態だったんです」
ゲーム内のことではあるものの、オリヴィアの差し金だったのだろうな、と。たやすい想像をしていると、メイジーは内緒話のていでこう続けた。
「ですが、そのような事態は起きませんでしたし。ですから、万が一、オリヴィアさまがパーティーに参加をされたとしても、おひとりということはないでしょうから。大丈夫ではないでしょうか」
「そうですか」
地下パーティーに参加をする時点で十分な問題行動ではあるものの、レオが同行していれば、それ以上の騒動になることはないだろう。
その確証に、サイラスは少なからずほっとした。オリヴィアに言ったとおりで、思うところはあれど、酷い目を見たいわけではないのだ。
「まぁ、婚約者のいる年頃の令嬢が参加するものではないと思いますが」
「それはそうですわね。でも、エズラさまとオリヴィアさまも昔からのご関係なのですよね……と、あの、これは、変な意味ではないのですが」
「存じています」
彼女に限って、そういった嫌味を言うことはしないだろう。頬をなぶる風の音に、けらけらと笑うさざ波のような小さきものの声が混ざる。彼女といると、本当に精霊の気配が活発だ。
彼らの気配が清らかであり続けることは、彼女の魂の清らかさの証左である。光の聖女。どう説明したものかと内心で少し悩みながら、サイラスは口を開いた。
「こちらこそ、申し訳ございません。ご体調がよろしくなかったとオリヴィアさまからお聞きしましたが。ご無理をされていたのかと気になっていたんです」
眉を垂らしたメイジーが、それに、とサイラスを安心させる調子で言い足した。
「帰りはオリヴィアさまとご一緒に送っていただきましたので」
なるほど。ハロルドの言ったとおり、すべてオリヴィアが体裁を整えたらしい。そう納得し、サイラスはメイジーの求める顔をつくった。
「オリヴィア嬢とご一緒だったのですね。安心しました」
「以前にも言ったかもしれませんが、実際のオリヴィアさまはとても素敵な方ですね。率直に物事をお話しになるので気の弱い方には恐ろしいと映るのかもしれませんが」
「気の弱い人間だと恐ろしいと思うような話を?」
「そういうわけではないのですが。……あの、もしかして、地下パーティーのことを気にしていらっしゃるのですか?」
地下パーティーという単語で素直に声を潜めたメイジーに、サイラスは応とも否とも取ることのできる笑みを浮かべた。
エズラが主催する地下パーティー。オリヴィアがそのパーティーにメイジーを半ば無理やり参加させ、危害を加えようとする。そんな筋書きがメイジーの知る乙女ゲームにあることは、以前、メイジー本人から聞いていた。
その行動が、ハロルドとの婚約破棄の決定打になるのだということも。現実では起こらないようでなによりだとメイジーは笑っていたが、エズラが主宰する地下パーティーは実在する。そうして、オリヴィアが幾度を参加をしていることも、サイラスは知っていた。
ジェラルドの誕生日パーティーで話していたのも、おそらくは地下パーティーのことだろう。
「殿下の婚約者ですし、昔から知っている相手なので」
「そうですわよね。ですが、ご安心ください。きっと大丈夫だと思いますわ」
言葉どおりの調子でにこりとほほえみ、メイジーは打ち明けた。
「実は、帰りの馬車で地下パーティーのお声かけはいただいたのですが。会話の流れの中で、という雰囲気でしたし、強要されるようなこともありませんでしたので」
「そうですか」
「それに、実はゲーム内では、それ以前にもいろいろと問題がありまして。地下パーティーのときはレオさんは謹慎処分を受けていらっしゃる状態だったんです」
ゲーム内のことではあるものの、オリヴィアの差し金だったのだろうな、と。たやすい想像をしていると、メイジーは内緒話のていでこう続けた。
「ですが、そのような事態は起きませんでしたし。ですから、万が一、オリヴィアさまがパーティーに参加をされたとしても、おひとりということはないでしょうから。大丈夫ではないでしょうか」
「そうですか」
地下パーティーに参加をする時点で十分な問題行動ではあるものの、レオが同行していれば、それ以上の騒動になることはないだろう。
その確証に、サイラスは少なからずほっとした。オリヴィアに言ったとおりで、思うところはあれど、酷い目を見たいわけではないのだ。
「まぁ、婚約者のいる年頃の令嬢が参加するものではないと思いますが」
「それはそうですわね。でも、エズラさまとオリヴィアさまも昔からのご関係なのですよね……と、あの、これは、変な意味ではないのですが」
「存じています」
彼女に限って、そういった嫌味を言うことはしないだろう。頬をなぶる風の音に、けらけらと笑うさざ波のような小さきものの声が混ざる。彼女といると、本当に精霊の気配が活発だ。
彼らの気配が清らかであり続けることは、彼女の魂の清らかさの証左である。光の聖女。どう説明したものかと内心で少し悩みながら、サイラスは口を開いた。
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