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第三章:真夏の恐怖怪談

「旧館のもじゃおさん」②

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「それでその直後に失くなったものだから、相馬さんの腹いせじゃないかって思っちゃったんだよね。失くした覚えはまったくなかったし。まぁ、それというのも、ほかにも似たような案件がたくさんあるからなんだけど」
「え?」
「つまり、相馬さんと揉めたあとに私物が消えたっていう人が山ほどいるわけ」

 決定的な証拠がないから、問い詰められないんだけどね。そう締めくくったほのかさんが「そんなわけだから、はなちゃんも気を付けな」と忠告するように眉を寄せた。

「えっと、相馬さんに、ですか?」
「そう。よろ相とは直接の関わりもないし離れてるから大丈夫だと思うけど、絶対に昨日ので目ぇ付けられたよ」

 嫌な確信に満ちたそれに、笑顔が引きつる。考えたくないが有り得そうだ。

「はい。気を付けます」

 先輩にも夏梨ちゃんにも関わるなと言われていたのに、のこのこやってきたあたしが悪いんだろうなぁ。
 いや、でも、すぐに渡したほうがいいっていう判断は間違ってなかったと思うんだけどな……!

「まぁ、なにかあっても、もじゃおさんがなんとかしてくれると思えば大丈夫か。おもしろいことあったら教えてね」
「はぁ、おおごとにならなかったら、それでいいんですけど」
「ねぇ。本当に。――それでさ、はなちゃん」
「はい?」
「もじゃおさんって実はかっこよかったりしないの?」

 わくわくを隠さない瞳を前に、あたしは愛想笑いのまま固まってしまった。そのあたしに、ほのかさんが「一緒のところで働いてたら知ってるでしょ」と追い討つ。
 いや、まぁ、知ってはいますけど。それはもうなんというか、あやかしよろず相談課に配属されるより前から。
 ぎこちなくあたしは笑みを取り繕った。

「……いえ、可も不可もなくふつうです」
「そうか、ふつうかぁ」

 がっかりと肩を落としたほのかさんに、あははと笑う。それ以外に対応できなかったのだ。
 なんでそんなことを言ってしまったのか。自分でもよくわからない。

 ……いや、事実を告げても、先輩は嫌がるだろうし。

 そう思うことで、あたしは自分をなんとか納得させた。そうだ、先輩は絶対に嫌がるはずだ。

「まぁ、だよねぇ。あのもじゃもじゃと眼鏡の下が美形だったら、どんな少女漫画だよって話だよね」
「で、ですよねー」

 だがしかし、それが事実なのだから、本当に真実は小説よりも奇なりを地で行く人だ。
 おまけに、あやかしが見えるという少女漫画もびっくりのファンタジー要素まで混ざっている。
 まぁ、いい人だけどね。変な人だけど。苦笑いなのか愛想笑いなのかわからない笑顔を浮かべたまま、ほのかさんに暇を告げる。思っていた以上に長居してしまった。

 また飲み会のときに聞かせてねというほのかさんに手を振って税務課を出たところで、あたしは「あれ」と振り返った。
 カウンターの内側から視線を感じたような気がしたのだ。
 けれどほのかさんはもうパソコンに向き直っている。そのほかに親しくしている人も見当たらない。

 ――気のせいかな。

 言い聞かせて、あたしは早足で旧館に向かった。
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