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笑う門には福来る

20:時東悠 1月25日21時50分 ①

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 他人の言動の裏に潜む感情を、敏感に想像するようになったのは、「絶対」などというものはないと思い知ったからだった。
 馬鹿らしくなったのだ。自分ばかりが相手を信じ、好意を向けても意味がないと知って。相手が笑っているからといって、自分を許し受け入れてくれているわけではないと知って。怖くなったのだ。深い関係を築くための一歩を踏み出すことが。


 さて、なにをどう送ったものか。
 メッセージアプリを立ち上げた状態で、時東は長く思案に耽っていた。べつに、あの家を飛び出したつもりはない。まぁ、「飛び出したつもりはないと見えるように」飛び出しはしたけれど。
 東京で仕事があったことも本当で、あの家に帰るという意思表示で荷物を置きっぱなしにしたことも本当だ。
 だから、「ごめんなさい」では、きっとない。けれど、「ひさしぶり」というのも、少し違う気がする。
 そもそもとして、ひとつ屋根の下という――今思えば、なんでそうなった――、な状況に陥る前であれば、二週間に一度ふらりと自分が訪れることで生じる交流しかなかったのだ。そう考えると、なおさら「ひさしぶり」ではないだろう。
 けれど。そこまで考えたところで、時東は自宅の天井を仰いだ。

「距離取られたってことなんだろうな、あれ」

 突き放されたわけでも、嫌いだと言われたわけでもない。ただ、時東なりに勇気を出して踏み込もうとした瞬間、きれいに線を引かれたと思った。
 おまえがいる場所はここではないだろう、と。
 南にとっては優しさであったのかもしれないし、彼が言ったとおりのあたりまえの感情だったのかもしれない。必要以上にダメージを受けたのは、ひとえに踏み込もうと決意した直後だったせいだ。

 ――だから嫌なんだよなぁ、本当。

 ぐしゃりと頬にかかった髪を掻きやり、眉を寄せる。誰かと親密になろうと思うと、そういったことが気になってしまう。軽い付き合いで済ませているうちは、「べつにいい」で流すことができるのに。
 ぐるぐるとした思考を止め、時東はスマートフォンに視線を戻した。

「逢いたい」

 フリック入力で打ち込んで、そっと息を吐く。
 消そうか、どうしようか。迷いながらも、時東は送信ボタンを押した。送ってしまったと自覚した途端、後悔の念が疼いたものの、たぶん、これが一番本心に近いのだ。
 逢いたい。ごはんを食べに行きたい、というだけでなく、あの人の傍に行きたい、というだけでも、きっとなく。ただ、逢いに行きたいと、自分の全身が求めている。
 たとえ、傷ついたとしても。……まぁ、できることであれば、傷つきたくないと思っているけれど。




[20:時東悠 1月25日21時50分]
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