南食堂ほっこりごはん-ここがきっと幸せの場所-

木原あざみ

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袖振り合うも他生の縁

19:南凛太朗 1月18日21時55分 ①

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 どう答えるべきなのだろうか、と悩んだことがある。
 時東が押し入れでCDを見つけていた、と春風から聞いた夜のことだ。
 隠していたわけではないし、問われたら答えるつもりでいた、というのは、春風に告げたとおり、南の本心だった。
 
 だが、そもそもとして、あの子どもは覚えているのだろうか。そう南は疑問を抱いていた。仮に覚えていたとして、記憶の共有を求めているのだろうか。
 改めて考えたとき、「ないな」という結論を自分は下した。
 あの子どもは、過去を知らず、芸能人としての時東はるかに興味を持たない南食堂の店主に気を許しただけ。

 ――だから、まぁ、そういうことだよな。
 
 もし、万が一、尋ねてくることがあれば、正直に答えてやればいい。時東は、名前も顔もあの当時からほとんど変わっていないのだ。気がつかなかったというほうが無理があるし、妙な嘘を吐く必要もない。
 だが、逆に、時東が尋ねることを選ばないのであれば、知り合ったばかりの南食堂の店主でいてやればいい。
 そうして、いつか。元の世界に戻る背中を見送ってやればいい。
 割り切った関係は、南にとっても楽なものだった。そうでさえあれば、自分の世界が変わることもない。今までどおりでいることができる。そう思っていた。



 [19:南凛太朗 1月18日21時55分]



 営業を終えた食堂のカウンターで、大きく息を吐いて首を回す。ひとりきりの店内に響いた鈍い音に、南は苦笑をこぼした。
 仕事柄、凝りやすいことは凝りやすいのだが、余計なことを考えながら包丁を握ると、よりいっそう顕著になると知っている。つまるところ、この数日ろくなことを考えていないのだ。

 ――春風のおばちゃんが言ってたことじゃないけど、次の休みくらい酒でも飲んで寝呆けるか。

 明日の予定を脳内で決定し、閉店準備に取り掛かろうとしたところで、ガラリと店の戸を引く音がした。入ってきた顔を認知した瞬間、なんだ、おまえか、と南は言いそうになった。寸前のところで言わなかったけれど。
 それなのに、幼馴染みはゆっくりと瞳を瞬かせた。

「あれ。もしかして、あの子だとでも思った?」

 べつに、という言葉を呑み込んで黙り込む。言い訳になってしまいそうだったからだ。もう閉めるつもりだったんだけど、と告げることも八つ当たりに響きそうで、南は曖昧に首を振った。
 家に帰ったところで、待っている相手がいるわけでもない。春風の一杯に付き合うくらい、なんでもない話だ。閉店準備を取りやめてカウンターに肘をつく。
 受け入れると示したそれに、春風がふらりと近づいてきた。コートを着たまま定位置に座り、にこりとほほえむ。
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