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袖振り合うも他生の縁
17:南凛太朗 1月7日21時55分 ④
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「それが南さんの本心なの?」
座卓に置いた手に時東のものが重なる。緊張しているのか、ひどく冷たかった。
それなのに、頭に浮かんだのは、この家は暖かいと言ったいつかのうれしそうな声で。
「あぁ」
その声を封印し、南は淡々と応じた。
「本心というか、まぁ、そうだな。それ以外にないだろ」
この家が、自分が、避難場所として機能しているあいだは、おまえを捨てるつもりはない。それだけのことなのだ。
親身になる理由がわからないというのであれば、南の中にある過去の罪悪感ゆえだと答えてやってもいい。
理由を知れば、時東が来ることはなくなるのだろうけれど。
「そう」
感情の凪いだ声だった。
「うん、わかった」
にこり、と。テレビの中で見る顔でほほえんだのを最後に、時東の手が離れていく。
寒い、と思った。
理由はわからなかった。
底冷えのする家にも、ひとりで過ごす夜にも、慣れていたはずだったのに。なぜ、そんなふうに思ってしまったのだろう。
南には結婚をするつもりがない。心を明け渡した人が、また突如いなくなる。その可能性を想像することに耐えられなかったからだ。
だから、ひとりで生きていくつもりでいた。でも、それでいいと思っていた。たまに顔を出す春風の相手をしながら、やれる年まで食堂をやって、この家で暮らしていく。それで十分に幸せだと、そう。
本心で思っていたはずなのに、中途半端に招き入れてしまった。灯りのついた家に帰ることに慣れてしまった。
反省すべき点はそこだった。そこでしかない。時東はなにも悪くない。
「時東」
呼びかけると、「なに?」ともう一度時東がほほえんだ。
「気に障ったんなら、謝る」
剥がれ落ちた殻を、一枚一枚張りつけ直したような笑顔だった。
ここにいるあいだは、ありのままでいることができるはずだったんだろう。よくわからない、八つ当たりのような感情が渦巻いていた。そのすべてを押さえ込んで、言葉を続ける。
「だから、帰るとか言い出すなよ」
「え……」
「雪。おまえが来たときよりもずっと積もってる。雪道になんて慣れてないだろ。そんなやつがバイクで二時間もかかるところに夜中に帰ろうとするな。……頼むから」
慣れない夜道は怖いと南は知っている。雪が積もっていれば、なおさらだ。いくら自分が気をつけても、スリップした車が突っ込んできたらどうにもならない。あの怖さを、もう二度と知りたくはなかった。そんなニュースは見たくない。
静かに耳を傾けていた時東が、ふっとした笑みをこぼした。
もしかすると、話の底に流れる不安に気がついたのかもしれない。だが、それで残ろうと思ってくれるのであれば構わない。そう思った。
わずかに視線を逸らし、時東が呟く。隠しきれない呆れと自嘲のにじんだ声だった。
「南さんのそれって、本当に性質悪いよね」
圧いカーテンに覆われた窓の外では、雪起こしのような雷鳴が響いている。
寒い、冬の夜だった。
座卓に置いた手に時東のものが重なる。緊張しているのか、ひどく冷たかった。
それなのに、頭に浮かんだのは、この家は暖かいと言ったいつかのうれしそうな声で。
「あぁ」
その声を封印し、南は淡々と応じた。
「本心というか、まぁ、そうだな。それ以外にないだろ」
この家が、自分が、避難場所として機能しているあいだは、おまえを捨てるつもりはない。それだけのことなのだ。
親身になる理由がわからないというのであれば、南の中にある過去の罪悪感ゆえだと答えてやってもいい。
理由を知れば、時東が来ることはなくなるのだろうけれど。
「そう」
感情の凪いだ声だった。
「うん、わかった」
にこり、と。テレビの中で見る顔でほほえんだのを最後に、時東の手が離れていく。
寒い、と思った。
理由はわからなかった。
底冷えのする家にも、ひとりで過ごす夜にも、慣れていたはずだったのに。なぜ、そんなふうに思ってしまったのだろう。
南には結婚をするつもりがない。心を明け渡した人が、また突如いなくなる。その可能性を想像することに耐えられなかったからだ。
だから、ひとりで生きていくつもりでいた。でも、それでいいと思っていた。たまに顔を出す春風の相手をしながら、やれる年まで食堂をやって、この家で暮らしていく。それで十分に幸せだと、そう。
本心で思っていたはずなのに、中途半端に招き入れてしまった。灯りのついた家に帰ることに慣れてしまった。
反省すべき点はそこだった。そこでしかない。時東はなにも悪くない。
「時東」
呼びかけると、「なに?」ともう一度時東がほほえんだ。
「気に障ったんなら、謝る」
剥がれ落ちた殻を、一枚一枚張りつけ直したような笑顔だった。
ここにいるあいだは、ありのままでいることができるはずだったんだろう。よくわからない、八つ当たりのような感情が渦巻いていた。そのすべてを押さえ込んで、言葉を続ける。
「だから、帰るとか言い出すなよ」
「え……」
「雪。おまえが来たときよりもずっと積もってる。雪道になんて慣れてないだろ。そんなやつがバイクで二時間もかかるところに夜中に帰ろうとするな。……頼むから」
慣れない夜道は怖いと南は知っている。雪が積もっていれば、なおさらだ。いくら自分が気をつけても、スリップした車が突っ込んできたらどうにもならない。あの怖さを、もう二度と知りたくはなかった。そんなニュースは見たくない。
静かに耳を傾けていた時東が、ふっとした笑みをこぼした。
もしかすると、話の底に流れる不安に気がついたのかもしれない。だが、それで残ろうと思ってくれるのであれば構わない。そう思った。
わずかに視線を逸らし、時東が呟く。隠しきれない呆れと自嘲のにじんだ声だった。
「南さんのそれって、本当に性質悪いよね」
圧いカーテンに覆われた窓の外では、雪起こしのような雷鳴が響いている。
寒い、冬の夜だった。
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