南食堂ほっこりごはん-ここがきっと幸せの場所-

木原あざみ

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袖振り合うも他生の縁

17:南凛太朗 1月7日21時55分 ③

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 だったら、構わない。そう思ったので、南は苦笑を返した。

「怒るか、そんなことで。この年にもなって」
「年齢ってそんなに関係ないんじゃ。いや、まぁ、自分が年より幼い自覚は一応あるんだけど。……いや、それも違くて」

 どうにも要領を得ない話しぶりだったが、心の内を話すことに慣れていないからなのだろう。
 あのテレビを見たとき、春風もそんなふうに評して笑っていた。

「なんて言ったらいいのか、ちょっとわからないんだけど。その、苛々してました。ごめんなさい。会えると思ってたのに会えなかったからかな……って、これもぜんぶ俺の勝手だな、ごめんなさい。それで、あの」
「時東」

 延々と続きそうだった釈明を遮り、口を開く。

「好きにしたらいい、ぜんぶ、おまえの」
「え……?」
「俺がおまえを受け入れてるのは、俺の意志だ。だから、ここに帰ってきたかったら、いつでも戻ってきたらいい」

 来たいと思っているうちは、そうすればいい。それだけのことだ、と。目の前の相手を見つめたまま南は言い切った。

「逆に、今までの場所に戻りたかったら、とっとと忘れたらいい。こんなものぜんぶ」

 気の抜けた顔で落ち着くと笑った時間も、とりとめのない交流も、おいしいと笑顔で一緒にごはんを食べたことも、すべて。
 精神が落ち着いて、曲を作れるようになって。ストレスが減れば減るだけ、向こうでも笑って食べることができるようになる。自分の作ったものであろうと、なかろうと、なにも関係がなく。
 そうやって、テレビの中の「時東はるか」に戻っていけばいい。本当に、そう思っていた。

「なんで、そういうこと、言うの?」

 はじめて聞く、静かな声だった。

「そういうことって?」

 瞳に潜む険には気がつかないふりで、南は問い返した。間違ったことを言ったつもりはなかったからだ。

「わかってるくせに。その、俺を遠ざけるようなこと」
「あのな、時東」

 溜息を呑み込み、宥める調子で呼びかける。どうしてわざわざ言葉にしないといけないのか。ほんの少し、そんなふうに苛立ちながら。
 自分が年上だからか。人間関係に傷ついた過去を持つ子どもが、誰かに遠ざけられることを嫌がっていると承知しているからか。随分と馬鹿らしいことをしていると思った。

「俺は、あたりまえのことを言ってるだけだ」

 ついさっき、おまえも言っていただろうとは心底思ったけれど。最後の情けで指摘はしなかったが、そういうことでしかなかった。
 理想を押しつけ、自分の理想郷を作ろうとしていた。その相手がたまたま自分だったというだけのこと。だが、それが悪いわけではない。
 時東が立ち直るために必要な過程だったと思うこともできる。けれど、だからこそ、立ち直ったら出て行くべきなのだ。

「それに、誰も二度と来るなとは言ってないだろ」

 選ぶのはおまえで、その未来を選ぶべきとは言ったかもしれないが。必要以上に強要するつもりは南にはなかった。傷つけたいわけではなかったからだ。
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