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袖振り合うも他生の縁

17:南凛太朗 1月7日21時55分 ①

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 食堂の戸締りを終えて外に出ると、町道はうっすらと白に染まっていた。
 夜空から落ちてくるのは、水分の多い牡丹雪だった。夜半も降り続けば、明朝は少し積もっているかもしれない。

 南の住む町は、年に数度は十センチ程度の積雪がある。
 高齢者の多い地区なので、ご近所数件分の雪かきと、自宅から町道までの雪かきを担うことになるものの、負担と思ったことはない。
 幼馴染みなどは「本当、よくやるよねぇ」と呆れ半分に言うけれど、たぶん、そういう性分なのだ。情けは人の為ならず。持ちつ持たれつ。そうでないと、人付き合いの密な田舎でうまくやっていくことはできないので、ちょうどいい。
 つまり、自分にはこの生活が合っているのだ。そのはずで、後悔はひとつもないはずなのに。

 ――なんか、最近、似たようなことばっか考えてる気がするな。

 言い聞かせているというか、なんというか。
 この町にいるはずのない存在が、目の前に現れたせいなのかもしれない。
 とりとめもないことを考えながら歩く先、明かりの灯った窓が見えた。戻ってきたのか。
 仕事から帰ると、家の窓に明かりがある。数年前まではあたりまえだった光景が妙に胸に染みた。きっと、肌を刺す寒さのせいだろう。



[17:南凛太朗 1月7日21時55分]



「あ、お帰りなさい。南さん。お邪魔してます」
「ただいま」

 居間からこぼれる明かりに誘われて顔を出せば、炬燵で書き物をしていた時東の顔が上がった。へにゃりとほほえむ顔は、やはりどうにも華がある。
 築云十年の田舎家屋に馴染んでいることがおかしくて、自然と声が柔らかくなった。

「いつ戻ってきたの?」
「あ、えっと、一時間くらい前です。寒かった」

 だろうな、と思いつつ、上着を脱ぎながらもうひとつ問いかける。

「店のほうに顔出したら、なんか食わせてやったのに。なんで顔出さなかったんだ?」

 家の鍵を渡しているので、店に寄らずとも問題はなにもないのだが。小一時間前に着いていたのであれば、食堂ののれんは下りていただろうにと思ったのだ。
 のれんを下ろしてるときは行ってもいいんだよね、と。食い気味に確約を取り付けたのは、店に通い出したころの時東だ。
 問いかけに、「えーと」と時東が視線をさまよわせる。

「気にしてんのか、もしかして」
「いや、そういうわけでもなくもなくないかも」
「どっちだよ」

 曖昧な返事に苦笑して、時東の正面に腰を下ろす。歌詞でも書いていたのだろうか。使い込んだノートには、途切れ途切れに文字が躍っていた。
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