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袖振り合うも他生の縁

16:南凛太朗 1月7日15時25分 ②

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[16:南凛太朗 1月7日15時25分]


 南食堂は十時開店の二十一時閉店営業だ。
 合間の中休みは十四時から十六時。その時間で適当に休憩を取りつつ、南は夜の仕込みを行ってる。とどのつまり、営業している日はほとんどずっと食堂にいるというわけだ。
 今日も今日とてカウンター内で仕込みをしていると、がらりと店の戸を引く音がした。準備中の札をものともせずに立ち入る人間はそういない。
 春風あたりだろうと踏んでいると、予想どおりの顔が目の前の椅子を引いた。

「めっちゃ、外、寒かった。いつ降り出してもおかしくないよ、雪」
「そういや、そんなことも言ってたな。朝のニュースで」

 来て早々のにぎやかな声に苦笑気味に応じると、ダウンジャケットを脱ぎながら、へらりと笑う。

「やっぱり? クソ寒いもんなぁ。あ、凛、なんか温かいものない?」
「おまえの頭に俺に対する遠慮はないのか」
「えー。なにをいまさら」

 いまさら。そう言われてしまうと、返すことのできる言葉はない。なにせ生まれたころから一緒の間柄だ。
 脇に除けていた小鍋を一瞥し、問いかける。三が日は過ぎているが、白みそを消化したくて作ってしまったのだ。

「雑煮でも食うか?」
「あ、マジ? 食べる、食べる。白みそ?」
「おう。あれな。餅は焼かねぇからな。煮たやつな」

 このあたりの雑煮は、いたってシンプルな関東風だ。すまし汁に焼いた角餅。白みそで作る南家の雑煮がイレギュラーなのだが、春風にとっては懐かしい味だろう。

「そうだった、そうだった。凛のおばちゃんの雑煮はそうだったねぇ」
「レンジ使ってるし、時短だけどな」

 野菜と一緒に煮てもいいのだが、時間がかかる。これで良し、とレンジで温まった丸餅を鍋に戻して、味を馴染ませる。ひと煮立ちして椀に注ぎ、鰹節を振りかければ完成だ。

「おー、サンキュ。温まる」
「気をつけろよ」

 嬉々として箸を握る姿に注意を促せば、笑った春風が行儀悪くカウンター内を箸で示した。

「チビじゃねぇんだから、大丈夫です。そういや、なんでこんなところで作ってるの、これ。裏メニューってやつ?」
「そういうわけでもないんだけど」
「だよね。おまえ、そういう依怙ひいきっぽいことしないもんね」
「まぁ、……かもな」
「そのわりには、時東くんを依怙ひいきしてるけどねぇ」

 なんの気もない調子でずばりと言って、春風が椀に口を付ける。はふはふと餅を食べる様子をしばし眺め、南は問いかけた。

「なぁ」
「なに? うまいよ? おばちゃんの味に似てる。懐かしいな」
「いや、そうじゃなくて。俺、依怙ひいきしてるか? その、なんというか」
「芸能人に接するみたいに、ってこと?」

 言い淀んだ南の言葉を正確にくみ取って、春風が顔を上げる。そうして、ふっとほほえんだ。

「どうだろうね」
「おまえなぁ……」

 からかって楽しんでいることが丸わかりである。南が声を尖らせたところで、春風はどこ吹く風だったが。

「気になるなら聞いてみたら? 今日には来るんじゃなかったっけ」
「仕事次第だろ」

 あの日と同じように。長引くことがあれば来ないかもしれない。来るとしても何時になるのかまではわからない。時東の来るタイミングはいつもそうだ。

「そりゃ、そうか。人気者も大変だねぇ」

 そうだな、と南は相槌を打った。
 正月休みのあいだにも、幾度となくテレビで見たくらいである。人気のある芸能人のスケジュールはハードと聞くが、あのストレス具合を鑑みるになかなかのものだったに違いない。

 ――それで逃避先が「ここ」とか、相当だよな、あいつも。
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