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袖振り合うも他生の縁

15:南凛太朗 1月3日22時34分 ①

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「お帰り。早かったね」

 勝手知ったるとばかりにドアを開けた幼馴染みは、チャイムを鳴らした南の顔を見てわずかに首を傾げた。

「てっきりもっと遅くなると思ってたな」
「最初からすぐ戻るって言ってただろ」

 春風が出てきたということは、家主は酔い潰れているのだろう。気の毒にと思いつつ、南は春風から視線を外した。仮にも年上なのだから、潰れる前に止めてやればいいものを。

「それはそうだけど」

 靴を脱ぐ南を見つめたまま、春風が応じる。いつもと変わらない調子に、寒さで強張っていた身体から、ほっと力が抜けた。
 昔から一緒にいる幼馴染みの声を聞くと、無条件に安心する。たぶん、自分のテリトリーに帰ってきたという感じがするのだと思う。

「時東くんが帰さないかと思って」
「そんなわけあるか」

 一蹴したものの、南はすぐに言い足した。切り捨てすぎたかもしれないと危ぶんだのだ。

「仕事、抜けられなくなったらしいぞ。駅に着いたあたりで電話があった。だから、会ってない」
「ふぅん、売れっ子も大変だ」

 からかう調子で笑った春風が、小さく肩をすくめる。

「やっぱり俺は裏方がいいね。変に顔が売れて出歩けなくなるのも嫌だし、縛られるのも嫌だ」
「だろうな、おまえは」

 リビングに続くドアの向こうから、懐かしい曲が漏れ聞こえている。月子だ。インディーズで活動していた当時の人気ナンバー。
 四人で集まると、月子は決まって昔の歌を口ずさむ。あのころは特別だったのだと懐かしむように。



[15:南凛太朗 1月3日22時34分]



「凛太朗、お帰り」

 ワイングラスを片手に振り返った月子が、ふにゃりと気の抜けた笑みを浮かべる。その顔と、自分の不在中に積み上がったワインボトル。そうして、グラスを握ったまま力尽きた海斗の寝顔。
 それらすべてを順繰りに見やり、南は小さく溜息を吐いた。

「おまえ、また飲ませ過ぎたな」
「えー、あたしは、あたしのペースで飲んでただけだもん。海斗が勝手に無理してペース上げたの」

 机に突っ伏した屍は、静かな寝息を立てている。いつものパターンと言えば、いつものパターンである。
 海人も弱いわけではないものの、南も春風もワクだし、月子はザルなので、結果としてこうなってしまうのだ。

「抑えてやれよ。ふだん、あれだけ面倒見てもらってるんだから」
「でも、逆に、こういうときじゃないと、海斗の面倒なんて見れなくない?」

 ふふんと自慢げに笑った月子の細い指先が、海斗の頬をつつく。遊んでいるの間違いではなかろうか。そう疑ったものの、構われている海斗の寝顔は至極幸福そうだ。

 ――まぁ、いいか。

 海人がいいなら、それで。おざなりに割り切って、上着を脱ぐ。空いていたところに腰を下ろすと、その隣に春風も滑り込んだ。

「ほら、凛」
「……なんだよ」
「なんだよってご挨拶だな。飲みたそうな顔してたから、持ってきてあげたのに」

 卓上に置かれた一升瓶を一瞥し、眉間に皺を寄せる。

「してねぇ」
「してた、してた。飲みたそうな顔というか、飲んで忘れたそうな顔というか」

 だから、そんな顔はしていないだろう。言い返そうかと思ったものの、言い包められる未来しか予見できず、南は大人しく口を噤んだ。
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