南食堂ほっこりごはん-ここがきっと幸せの場所-

木原あざみ

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袖振り合うも他生の縁

13:南凛太朗 1月3日21時15分 ③

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 月子の楽しそうな声は、玄関にいてもはっきりと届く。一時間後に戻ってきたときも、きっとこの調子だろう。想像して、南は笑った。

「あいかわらずだな」

 施錠ついでに見送りに来た海斗が、ふっと目元を笑ませる。次に響いたのは、春風いわくの執事然とした静かな声だった。

「時東はるかに会った?」
「最近って意味で?」
「あの生放送以来って意味。先に謝っておこうかなと思って」
「月子の分か」

 生放送の舞台裏事情は承知しないものの、相前後するタイミングで出演していたことは知っている。あのお転婆がなにか言ったのだろう。
 苦笑した南に、海斗もまた柔らかな苦笑を見せた。

「理解が早くて助かります。そのとおり。ごめんね。月子、『いろいろ知ってるのよ』って匂わせて遊んでたから」
「ろくでもねぇな」
「うん、ごめん。でも、そこが月子の良いところだから」

 会話になってない、と呆れたが、この男が月子に盲目的であることも昔からのことなのだ。
 まぁ、べつに、時東になにか言われたとして、説明をすればいいだけだ。たいした問題ではない。上着を羽織り、ひとつ頷く。

「いいよ、べつに。そもそも月子に話したの、俺だし」

 月子に強請られた結果であるし、好き勝手に脚色して理解していた気はするが、それはそれだ。

「なら、よかった」

 安堵した表情の海斗に「じゃあ、またあとで」と見送られ、南は東京の街に出た。
 思えば、ひとりで明るい夜を歩くのは、随分とひさしぶりだった。
 地元の町の夜はあれほど暗いのに、たかだか二時間弱の移動で到着するこの街は、不思議なほど人と光にあふれている。

 南さん、三日の夜、東京にいるの? じゃあ、俺、逢いたい。
 それが、新年早々に始まったメッセージのやりとりの流れで、三日の予定を伝えた際の時東の返事だった。
 どうせ七日にはおまえがこっちに来るんだろ、とか。忙しいんじゃなかったのか、とか。言いたいことはいくらでもあったのに、気づいたときには、短時間の逢瀬を約束してしまっていた。
 壁が厚いふうであるくせに、こういうときばかり直球でかわいげのあることを言うからいけない。だから絆されてしまうのだ。

 東京に向かう道中でそう説明した南に、「デートだね」と幼馴染みはほほえんだわけだが、断じて違うと主張したい。
 デートというものは、男と女の――いや、べつに男同士でもいいのだろうが、とりあえず、付き合っている状態の人間同士の逢瀬に適用される単語であるはずだ。
 言い募ると、「いや、まぁ、いいんだけどね、なんでも」と春風は若干引いた顔をしていた。必要以上に熱く語りすぎたかもしれない。
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