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袖振り合うも他生の縁

13:南凛太朗 1月3日21時15分 ①

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『あけましておめでとうございます。昨年は本当にお世話になりました。今年も逢いに行くので、またよろしくお願いします。
 たぶん、七日の夜。遅くなるかもだけど、顔を出せるかなと思います。
 ちなみに、うちの雑煮はすましでした。南さんのお家は関東風だった?』

 一月一日になったばかりの、午前〇時。
 中高生のころであればまだしも、この年になって、こんな時間に年賀メールを貰うとは思わなかったな、と思う。しかも相手が、「時東はるか」だ。

「そういえば、白みそだったな……」

 母親が関西の出身だったので、南家は白みその甘い雑煮だった。健在だったころの母は、このあたりは角餅しか売っていないと不満たらたらで、年末が迫ると実家から丸餅を送ってもらっていた。
 昔話に刺激され、幼いころたびたび行った母方の実家が思い浮かんだ。
 南が高校生だったころに祖父母は相次いで鬼籍に入ったので、もう何年も赴いていない。今は叔父夫婦が住んでいるはずだが、彼らに会ったのも両親の三回忌が最後である。

「なにが白みそ? 雑煮でも作ってくれるの?」
「そういや、おまえは自分の家で関東風食って、俺の家で関西風食って喜んでたな」
「うん。どっちも好き。おいしいよね」

 へらりと笑った春風が、そのままごろりと炬燵に寝ころんだ。

「おい、こら。そこで寝るなよ」
「さすがに寝ないって。あー、そうだ。凛もさ、今日の朝は俺の家ね。連れて行かないと母ちゃんが拗ねるから」
「あー……」
「そのつもりで母ちゃんも用意してるんだから。それとも新年早々、俺が怒られてもいいの、凛ちゃんは」

 ひとりの正月もひとりの大晦日も、それほど寂しくはない、と。本心で南は思っている。だが、そう思うことができるのは、毎年律義に誘う春風がいるからだ。

 ――まぁ、だから、ありがたい話だよな、本当。

「それで、三日は俺と一緒に東京ね。月ちゃんと海斗くんが待ってるから」

 楽しみだね、と。珍しく屈託のない調子で告げられ、南は残っていたビールを喉に流し込んだ。
 七時間後には春風の家でお節をつついて、三日には旧友と逢い、七日には時東がここに来る。

『白みそ。着いたら食わせてやるから、気をつけて帰って来いよ』

 せっかくだから、丸餅でも探してみようか、と考えたところで、「楽しみ」にしている自分を南は自覚した。これは、どういう感情なのだろう。
 時東から返ってきたゆるいキャラクターのスタンプを眺め、最後に会ったときの会話を思い返してみる。
 時東は衒いなく「好き」だと言う。
 南さんのごはんが好き。この家が好き。南さんが好き。
 刷り込みが完了した雛かなにかのように、似非臭い笑みを引っ込めて、まっすぐに告げる。かわいくないわけはない。けれど、必要以上に気に留めないようにしよう、と南はずっと思っていた。
 それなのに、気に留めそうになってしまった。

 ――去年に捨てておくべきだな、これは。

 年を跨いでまで持っていていいものではないし、必要以上に考えるようなことでもない。そう思い切って、南はスマートフォンの画面を閉じた。



[13:南凛太朗 1月3日21時15分]
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