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袖振り合うも他生の縁

12:南凛太朗 12月22日9時35分 ②

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「そういえば、月ちゃんがさぁ」
「おう」

 しらっと話題を変えた春風を後目に、南は草むしりを再開した。こういうものは、やり始めるとなかなか止まらなくできているのだ。

「忘年会と新年会は絶対にやりたいって言ってるらしいよ」

 隣にしゃがみ込んだ春風が煙草に火をつける。実家で禁煙を言い渡されている春風は、南家の縁側と店の前を喫煙所に定めているのだ。

「海斗くんから年末年始は予定空けとけって連絡があってさ。凜のところにもきてると思うけど。あいかわらず、海斗くんは月ちゃんの執事みたいだね」
「言ってやるなよ、それ」
「だって、月ちゃんは我儘なわりに健気でかわいいし、海斗くんはそんな月ちゃんが大好きで忍耐強いじゃない。まさにお嬢様と優秀な執事でしょ。『月と海』じゃなくて『お嬢様と執事』でも良かったなって、たまに真剣に思うよ、俺」
「……言ってやるなよ」

 間違いなく月子は泣くし、その月子を見て海斗が怒る。月子のほうはしばらくすればけろりと立ち直るだろうが、海斗の静かな怒りはそれはもうしつこく持続するのだ。
 あいだに挟まれる身にもなれ、という話である。
 そもそもとして、自分に片思いをしている元バンド仲間の恋心に対して「健気」と評すること自体「ない」と思うのだが。
 南自身も恋愛に慣れているわけではないものの、それでも「ない」だろうとは心底思う。

「俺ばっかりひどいみたいに言うけどさぁ。凛だって相当だからね、ちなみに」

 だというのに、春風は、南も同類であるような顔をする。

「というか、話変わるけど。おまえ、一応、料理人の手なんじゃないの。この寒空の下、無意味な作業してんなよ」

 それを言うなら、おまえの手は、何万人もの人間が喜ぶ曲を創り出す手だろう、と思った。

「あーあー、赤くして」

 ふざけた調子で言って、春風が南の手を取る。まじまじと凝視される居心地の悪さを、南は立ち上がることで振り払った。

「おまえの銜え煙草のほうが、灰が落ちそうで怖ぇよ、ふつうに」
「はは、もっと信用してくれてもいいのに。ひどーい、凛ちゃん」
「ちゃん、って呼ぶな。ちゃん、って」

 何度言っても改まることのない呼び方は、嫌がらせに違いない。
 春風の親や、昔からよく知るご近所さんに「凜ちゃん」と呼ばれることは、諦めて受け入れているけれど。
 対人距離の近い田舎だが、南はこの町が好きだ。戻ってきたことに悔いはない。

「昔はもうちょっと似合う顔してたのにねぇ。そうやって不機嫌な顔ばっかりしてるから、余計に似合わなくなるんだと思うよ、俺」
「似合いたくもねぇよ、年を考えろ、年を」

 憮然と言い切った南に、「そうだよなぁ」と応じて春風も立ち上がった。冬の風に揺れて、紫煙が流れていく。
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