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袖振り合うも他生の縁
12:南凛太朗 12月22日9時35分 ①
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次に帰るのは、年が明けてからになると思うんだよね。だから、おせちは諦めるけど、お雑煮は食べさせてください、お願いします。
と、図々しいことをへらりと告げたのを最後に、来たときと同じ唐突さで時東はバイクに乗って去っていった。本当に時間はなかったらしい。
……というか、なんだ、帰るって。
おまえの家はここじゃないだろう、とか、なんとか。突っ込みどころはいくらでもあるわけだが、たぶん、これは深く考えないほうがいいやつだ。
そう決め打った南は、食堂付近の草むしりに没頭することにした。軍手などない。素手だ。かじかみそうに冷たかったものの、無心になることのできる作業がこれしかなかったのだ。
雑草の山が三山ほど完成したころ、不意に頭上が陰った。
「なにやってんの? 凛」
「おわっ」
「おわってなんだよ、おわって。人の顔見て変な声出すなっての。母ちゃんが、凛ちゃんが新しい暖簾飾ってたわよって言うから、散歩がてら見にきただけだったんだけど」
気がつかなかったものはしかたがない、はずだ。うっかり声を上げてしまったことは不覚であったけれど。
不承不承と顔を上げれば、いい年をして寝起きにダウンジャケットを羽織っただけのような格好の春風が、ポケットに手を突っ込んで立っていた。
まじまじと観察するようだった瞳が、得心したように笑んでいく。
「もしかして、来てたの。時東くん」
だから、なんだ、その顔は。二十年来の幼馴染みの顔がにんまりと変化していく様に、諦めの境地で南は溜息をもらしたのだった。
[12:南凛太朗 12月22日9時35分]
と、図々しいことをへらりと告げたのを最後に、来たときと同じ唐突さで時東はバイクに乗って去っていった。本当に時間はなかったらしい。
……というか、なんだ、帰るって。
おまえの家はここじゃないだろう、とか、なんとか。突っ込みどころはいくらでもあるわけだが、たぶん、これは深く考えないほうがいいやつだ。
そう決め打った南は、食堂付近の草むしりに没頭することにした。軍手などない。素手だ。かじかみそうに冷たかったものの、無心になることのできる作業がこれしかなかったのだ。
雑草の山が三山ほど完成したころ、不意に頭上が陰った。
「なにやってんの? 凛」
「おわっ」
「おわってなんだよ、おわって。人の顔見て変な声出すなっての。母ちゃんが、凛ちゃんが新しい暖簾飾ってたわよって言うから、散歩がてら見にきただけだったんだけど」
気がつかなかったものはしかたがない、はずだ。うっかり声を上げてしまったことは不覚であったけれど。
不承不承と顔を上げれば、いい年をして寝起きにダウンジャケットを羽織っただけのような格好の春風が、ポケットに手を突っ込んで立っていた。
まじまじと観察するようだった瞳が、得心したように笑んでいく。
「もしかして、来てたの。時東くん」
だから、なんだ、その顔は。二十年来の幼馴染みの顔がにんまりと変化していく様に、諦めの境地で南は溜息をもらしたのだった。
[12:南凛太朗 12月22日9時35分]
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