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縁とは異なもの味なもの
7:時東はるか 11月30日23時55分 ②
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「月見酒?」
「多少寒いけどな」
「よかった。南さんにも寒いっていう感覚があって」
笑って隣にしゃがみ込むと、南が手にしていたグラスを膝元に置いた。脇にあった日本酒の瓶に視線が留まる。この家で南が呑んでいるときはビールや発泡酒ばかりだったから、珍しいな、と思う。自分がいないときに呑んでいるのかもしれないけれど。
時東の飛び出した踝を見て、ふっと南が笑った。
「丈、足りてるか、それ」
「んー、大丈夫。ありがとう。お借りしてます」
「春風のやつのほうがサイズ合ったかもな」
「春風さんの?」
「あいつ、適当に自分のもの置いていくんだよ。そのへんに置いてあるし、寒かったらそっち使えば? 洗ってあるし」
さも当然と答えられ、慌てて首を振る。曖昧に応じたら最後、取り上げられてしまいそうだったので。
「いや、これでいいです。ぜんぜん、本当に」
……って、取り上げられるってなんだ。取り上げられるって。
覚えた違和感を呑み込み、にこりとほほえむ。その顔をじっと見つめていた南が、妙にしみじみと呟いた。
「それにしても、無駄にふたり揃ってでかいよな」
「無駄にって。これでもがんばって伸ばしたんです」
「がんばって伸びるもんなのか?」
「知らないけど。でも、高三くらいから急に伸びたんだよ、俺。それまでは小さかったから」
「そういや、そうだったかな」
「え?」
「呑むか?」
そのつもりでもうひとつグラスを用意してくれていたらしい。差し出されたグラスを受け取って、時東は瞳を瞬かせた。
「いいの?」
「ひとりで呑むもんでもないしな」
「明日休みだし?」
「まぁ、俺はそうか」
「ところで、いまさらなんだけど、俺、泊まってよかったの? 南さんって、あんまりそういうのに抵抗ない人?」
なさそうだなということは言動から感じ取っているけれど。迷惑ではないという言質を取りたかったのかもしれない。
窓の外を眺めたまま、南がかすかに喉を鳴らした。
「なんだよ、そういうのって」
「まぁ、そういうのですよ」
「田舎だからな。良くも悪くも。春風が朝起きたらいるとか、普通だし」
「……それは普通なの」
田舎だからどうのこうのというより、もっと単純にこのふたりの距離感の問題な気がする。ささくれた気分で、注いでもらった酒を流し込む。ほんのりとした苦みはあるけれど、呑みやすい味だ。
改めて、不思議に思う。なんで、この人と一緒だと味がするんだろうなぁ。
呑みやすいね、と呟くと、だろ、と南が言う。
「ここの地酒。同級生の兄ちゃんが継いだ店なんだけど、たまに呑みたくなるんだよな」
「南さんみたいに地元に残ってる人って多いんだ」
「いや? 都会に出てそれっきりみたいなやつも多いよ。……あぁ、でも、大学出て、そのまま都会で二、三年働いて。そこからやっぱり戻ってきた、みたいなやつもそれなりにいるな」
「春風さんも?」
「春風?」
「なんというか、あんまりこのへんの人っぽくないなぁと思って」
不思議そうに問い直されて、へらりと取り繕う。それらしい理由を用意するのは得意だ。
「いや、あいつは、大学は俺と同じで東京だけど、卒業してすぐこっちに戻ってきたクチ」
「大学も一緒だったんだ」
「学部は違ったけどな。うちの親もあいつの親も、そのほうが安心だって、ひとまとめに一緒のアパートに放り込まれて。結局、ずっと一緒だったな。そう思うと」
懐かしそうに南が目を細める。はじめて見た表情だと思った。そうして、きっと、自分が知らない顔はもっとあるのだろうな、とも。
「まぁ、今は、あれだ。兼業、農家?」
なんで疑問形なんだろうと訝しんだものの、時東自身もミュージシャンのうしろに疑問符を付けかねられない身だ。
無用な薮は突かないことにして、もう一口酒を呑む。日本酒はあまり好きでなかったのだけれど、おいしいなと素直に思う。
一緒に呑んでいる相手の問題なのかもしれない。
「多少寒いけどな」
「よかった。南さんにも寒いっていう感覚があって」
笑って隣にしゃがみ込むと、南が手にしていたグラスを膝元に置いた。脇にあった日本酒の瓶に視線が留まる。この家で南が呑んでいるときはビールや発泡酒ばかりだったから、珍しいな、と思う。自分がいないときに呑んでいるのかもしれないけれど。
時東の飛び出した踝を見て、ふっと南が笑った。
「丈、足りてるか、それ」
「んー、大丈夫。ありがとう。お借りしてます」
「春風のやつのほうがサイズ合ったかもな」
「春風さんの?」
「あいつ、適当に自分のもの置いていくんだよ。そのへんに置いてあるし、寒かったらそっち使えば? 洗ってあるし」
さも当然と答えられ、慌てて首を振る。曖昧に応じたら最後、取り上げられてしまいそうだったので。
「いや、これでいいです。ぜんぜん、本当に」
……って、取り上げられるってなんだ。取り上げられるって。
覚えた違和感を呑み込み、にこりとほほえむ。その顔をじっと見つめていた南が、妙にしみじみと呟いた。
「それにしても、無駄にふたり揃ってでかいよな」
「無駄にって。これでもがんばって伸ばしたんです」
「がんばって伸びるもんなのか?」
「知らないけど。でも、高三くらいから急に伸びたんだよ、俺。それまでは小さかったから」
「そういや、そうだったかな」
「え?」
「呑むか?」
そのつもりでもうひとつグラスを用意してくれていたらしい。差し出されたグラスを受け取って、時東は瞳を瞬かせた。
「いいの?」
「ひとりで呑むもんでもないしな」
「明日休みだし?」
「まぁ、俺はそうか」
「ところで、いまさらなんだけど、俺、泊まってよかったの? 南さんって、あんまりそういうのに抵抗ない人?」
なさそうだなということは言動から感じ取っているけれど。迷惑ではないという言質を取りたかったのかもしれない。
窓の外を眺めたまま、南がかすかに喉を鳴らした。
「なんだよ、そういうのって」
「まぁ、そういうのですよ」
「田舎だからな。良くも悪くも。春風が朝起きたらいるとか、普通だし」
「……それは普通なの」
田舎だからどうのこうのというより、もっと単純にこのふたりの距離感の問題な気がする。ささくれた気分で、注いでもらった酒を流し込む。ほんのりとした苦みはあるけれど、呑みやすい味だ。
改めて、不思議に思う。なんで、この人と一緒だと味がするんだろうなぁ。
呑みやすいね、と呟くと、だろ、と南が言う。
「ここの地酒。同級生の兄ちゃんが継いだ店なんだけど、たまに呑みたくなるんだよな」
「南さんみたいに地元に残ってる人って多いんだ」
「いや? 都会に出てそれっきりみたいなやつも多いよ。……あぁ、でも、大学出て、そのまま都会で二、三年働いて。そこからやっぱり戻ってきた、みたいなやつもそれなりにいるな」
「春風さんも?」
「春風?」
「なんというか、あんまりこのへんの人っぽくないなぁと思って」
不思議そうに問い直されて、へらりと取り繕う。それらしい理由を用意するのは得意だ。
「いや、あいつは、大学は俺と同じで東京だけど、卒業してすぐこっちに戻ってきたクチ」
「大学も一緒だったんだ」
「学部は違ったけどな。うちの親もあいつの親も、そのほうが安心だって、ひとまとめに一緒のアパートに放り込まれて。結局、ずっと一緒だったな。そう思うと」
懐かしそうに南が目を細める。はじめて見た表情だと思った。そうして、きっと、自分が知らない顔はもっとあるのだろうな、とも。
「まぁ、今は、あれだ。兼業、農家?」
なんで疑問形なんだろうと訝しんだものの、時東自身もミュージシャンのうしろに疑問符を付けかねられない身だ。
無用な薮は突かないことにして、もう一口酒を呑む。日本酒はあまり好きでなかったのだけれど、おいしいなと素直に思う。
一緒に呑んでいる相手の問題なのかもしれない。
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