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縁とは異なもの味なもの
5:時東はるか 11月24日15時20分 ②
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おまえ今日、飯は食って帰るんだよな、という半ば決定事項だった南の誘いに乗った時東の前に現れたのは、どこか懐かしい電気鍋だった。
「わ、いいね。お鍋? ひとりだとできないもんね」
昨今は一人鍋もあるらしいが、どうせ鍋をつつくならば大人数でつつきたい。南の家のそれも、四、五人で囲むのに適したサイズという感じだ。
「まぁな。そういや、おまえ、このあいだ、会ったんだよな? 春風。あいつとか来ると、出すこともあるけど。俺もそれくらいだな」
「幼馴染みなんだって? なんというか、あんまり田舎にいなさそうな人だよね」
「あのな。田舎って言っても、二時間走れば東京だからな、一応」
「それはよく知ってます」
そうでもなければ、そうそう来ることもできやしない。いや、もう少し遠くても、もしかしたら通っていたかもしれないが。
寄せ鍋なのか、うどんすきなのか。「ありものだけど」と南が適当に葉物や根菜を放り込んだ鍋がぐつぐつと煮える音がする。
こういった雑多さも、お家ごはんという感じでいいなぁ、と時東は頬を緩ませた。できあがりを待つあいだのとりとめのない会話もまたよしだ。
「でも、いいね。今でも仲良さそうで」
「田舎だと、小中高ずっと一緒ってあたりまえだからな。私立に行く選択肢もねぇし。家も近いし。そら、仲も続くわ。よっぽど相性が悪くない限り」
そういうものなのだろうか。時東にはよくわからない。わからないついでに、時東は話を変えた。
「南さんってさぁ。彼女とかいないの?」
「なんで」
「だって、結婚とかしたら、来づらいじゃん」
まったく時東の理由でしかなく、そもそもで言えば、店に行くだけであれば、なにひとつ関係のない話であるのだが。このあいだから、どうにも気になっていたのだ。
神妙に尋ねた時東の顔を見て、南がふっと苦笑を浮かべた。
「そんな予定のやつがいたら、定休日に草刈りして、おまえの相手してねぇよ」
それは、まぁ、たしかにそうだ。来た当初のもやもやが晴れ、時東は一気に嬉しくなった。この先もそうであればいいのに、と浮かれたまま思ってしまったが、さすがにそれは呪いに近い。
そんなことを願われているとは知らない顔で、「そろそろいいか」と南が鍋の蓋を開ける。湯気と一緒に煮えた白菜の匂いが広がって、「わぁ」と時東は歓声を上げた。
「どこの子どもだ」
「時東さんのところの悠くんです。この際、南さんのところの悠くんでもいいけど。――あ、いただきます」
「こんなバカでかい子どもをつくった記憶はいっさいないけど、はい、どうぞ」
「いただきます」
どうでもいいやりとりすら楽しくて、幸せな心地で時東は手を合わせた。
味のわかる温かいごはんを南と食べる空間が、すっかりと代えがたいものになってしまっているなぁ、とも思いながら。
「わ、いいね。お鍋? ひとりだとできないもんね」
昨今は一人鍋もあるらしいが、どうせ鍋をつつくならば大人数でつつきたい。南の家のそれも、四、五人で囲むのに適したサイズという感じだ。
「まぁな。そういや、おまえ、このあいだ、会ったんだよな? 春風。あいつとか来ると、出すこともあるけど。俺もそれくらいだな」
「幼馴染みなんだって? なんというか、あんまり田舎にいなさそうな人だよね」
「あのな。田舎って言っても、二時間走れば東京だからな、一応」
「それはよく知ってます」
そうでもなければ、そうそう来ることもできやしない。いや、もう少し遠くても、もしかしたら通っていたかもしれないが。
寄せ鍋なのか、うどんすきなのか。「ありものだけど」と南が適当に葉物や根菜を放り込んだ鍋がぐつぐつと煮える音がする。
こういった雑多さも、お家ごはんという感じでいいなぁ、と時東は頬を緩ませた。できあがりを待つあいだのとりとめのない会話もまたよしだ。
「でも、いいね。今でも仲良さそうで」
「田舎だと、小中高ずっと一緒ってあたりまえだからな。私立に行く選択肢もねぇし。家も近いし。そら、仲も続くわ。よっぽど相性が悪くない限り」
そういうものなのだろうか。時東にはよくわからない。わからないついでに、時東は話を変えた。
「南さんってさぁ。彼女とかいないの?」
「なんで」
「だって、結婚とかしたら、来づらいじゃん」
まったく時東の理由でしかなく、そもそもで言えば、店に行くだけであれば、なにひとつ関係のない話であるのだが。このあいだから、どうにも気になっていたのだ。
神妙に尋ねた時東の顔を見て、南がふっと苦笑を浮かべた。
「そんな予定のやつがいたら、定休日に草刈りして、おまえの相手してねぇよ」
それは、まぁ、たしかにそうだ。来た当初のもやもやが晴れ、時東は一気に嬉しくなった。この先もそうであればいいのに、と浮かれたまま思ってしまったが、さすがにそれは呪いに近い。
そんなことを願われているとは知らない顔で、「そろそろいいか」と南が鍋の蓋を開ける。湯気と一緒に煮えた白菜の匂いが広がって、「わぁ」と時東は歓声を上げた。
「どこの子どもだ」
「時東さんのところの悠くんです。この際、南さんのところの悠くんでもいいけど。――あ、いただきます」
「こんなバカでかい子どもをつくった記憶はいっさいないけど、はい、どうぞ」
「いただきます」
どうでもいいやりとりすら楽しくて、幸せな心地で時東は手を合わせた。
味のわかる温かいごはんを南と食べる空間が、すっかりと代えがたいものになってしまっているなぁ、とも思いながら。
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