南食堂ほっこりごはん-ここがきっと幸せの場所-

木原あざみ

文字の大きさ
上 下
14 / 82
縁とは異なもの味なもの

5:時東はるか 11月24日15時20分 ①

しおりを挟む
「おまえさぁ、冷凍もの嫌いなの?」
「へ?」
「いや、冷凍ものというか、レトルトというか、既製品?」

 しげしげと段ボール箱を眺めていた南に問われ、時東は曖昧に首を傾げた。たぶんだけど、どれも意味一緒じゃないかな。
 自分を居間に放り込むなり風呂に消えたと思えば、出てくるなりこれである。おまけに、ろくに拭いてもいないので、毛先からぽたぽたと水滴が落ちている。いや、まぁ、家主が気にしていないなら、畳が濡れてもいいと思うけど。

「え、いや、うん……まぁ、好きではないけど、でも嫌いだから南さんに押し付けに来たわけじゃないよ?」
「ひとりのときにでも食えばいいのに。それとも、尋常じゃない数が送られてきたりするの? こういうの」
「まぁ、そんなところ、です」

 大概の場合は事務所で処理します、とも言いづらい。濁した時東を追求することなく礼を述べると、南は廊下に出て行った。もちろん、箱は抱えたままだ。
 チーンと響いた鐘の音に、なんとなく尻の据わりが悪くなる。仏壇のある家の慣習かもしれないが、供えていただけるようなものではないのだ。

「あのさ、南さん」

 仏間に恐る恐る顔を出すと、立派な仏壇が視界に入った。線香の独特の香りが鼻先をかすめていく。
 時東の声に、しっかりと正座をしていた南が振り返った。なんだ、来たのか、とばかりの、ほんの少し意外そうな顔。

「俺もちょっと、ご挨拶させてもらってもいい?」
「いいけど」

 仏前から退いた南のあとを受けて、時東も膝をついた。並んでいる遺影は四つ。
 比較的新しいと感じたのは、埃を被っていなかったからかもしれない。おそらくは、南の祖父母と両親だ。

「蝋燭だけ消しといてな」
「はーい」

 立ち去る背中に良い子の返事をし、ちんと鈴を鳴らす。南に似た、気難しそうでいて、どこか優しそうな男性と、お喋り好きそうな雰囲気の笑顔の女性。
 もう、ここは俺ひとりだから。はじめて南の家に訪れた際に、彼が言った理由がよくわかった。
 息子さんには大変お世話になっています。いつもありがたくおいしいごはんをいただいています。ついでにできれば、今後ともよろしくお願いしたいです、と。
 最後は神頼みの様相だった気もしたが、よしとして、時東はそっと蠟燭の火を手で消した。



[5:時東はるか 11月24日15時20分]
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

処理中です...