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縁とは異なもの味なもの
2:時東はるか 11月18日23時32分 ③
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「まぁ、でも、南さん自体が不思議だからなぁ」
唯一、時東の味覚を刺激する料理を出してくれるという一点に置いて。ぽろりと零れたひとり言に、焦って時東は背後を振り返った。
よかった。いない。突っ込まれずにすむ。安堵を抱いて座り直してすぐ足音が戻ってきた。
「お帰り、南さん。――あ、おでんだ」
南が手にしていたそれに、自然と顔がほころぶ。タッパーに、缶ビールが二本。
「まだ温かいから、このままでいいだろ。おまえ、もう泊まってくよな? 酒飲める?」
「へ?」
「へ? って、おまえ、このあと東京まで戻るつもりだったの? 明日、朝から予定ないんだよな」
目を瞬かせた時東に、南はさも不思議そうな顔で答えを待っている。据わりが悪くなったのは、時東のほうだった。
「なんというか。南さん、不用心だな、と。俺が悪さしたら、どうするの?」
「俺よりどう考えても金持ってそうなのに?」
「わかんないじゃん、そんなの」
「なに。おまえ、まさかその年でギャンブルとかで、資産食い潰してんの?」
「いや、してないけど」
そこはさすがに否定しておきたい、人間的な信用の意味で。首を振った時東に、南は「なら、いいだろ」と缶を一本突き出してきた。
「あんまり無理な運転するなよ、おまえ。若いつもりか知らねぇけど。必要ないなら午前様に単車転がすなって」
「いや、……うん、仕事柄、普通の人より運転には気をつけてるつもりだけど。まぁ、そうだね」
もごもごと応じて、でも、まぁ、あれだな、と時東は納得することにした。俺より南さんのほうが強そうだもんな。自分のほうが一応身長は高いが、ガタイはそう変わらない。というか、腕相撲でもすれば、かなりの確率で負ける気がする。
缶ビールを受け取って、時東はへらりとほほえんだ。
いっそのこと、俺の笑顔で女の子みたいに南さんが絆されて、もっといっぱい料理を作ってくれたらいいのになぁ。それであわよくば俺の家まで持ってきてほしい。詮無いことを妄想しながら、缶を軽く持ち上げる。
「ね、ね、乾杯しよ。南さん」
「乾杯? なにに?」
面倒くさそうに缶のプルトップを開けて、南が視線を上げる。睨んでいるわけではないのだろうが、睨んでいるように見える。よく言って目力の強いタイプだ。とどのつまり、目つきが悪い。
はじめて見たときは、客商売に向いていない顔だと思ったが、そんなことはなかった。本当に人間、顔じゃない。
だって、南の店はものすごく落ち着くのだ。適度に放っておいてくれる南の接客は、ひどく居心地がいい。少なくとも、時東にとって。
「じゃあ、南さんに」
有無を言わせず、かちんと缶を当てに行って、ビールを口にする。次の瞬間、時東は瞠目した。味がする。南の手作りじゃないのに、味がした。苦みがあった。
「なんで俺だよ」
納得のいかない顔でぼやく南をまじまじと見つめ、時東は呟いた。
「いや、やっぱり南さん、俺の神様だわ、ガチで」
頭大丈夫か、おまえ、と言わんばかりの視線にも、時東の笑顔は崩れなかった。神様だと思えば、なんの支障もない。そうか、この人と食べれば味がするのか。
それは間違いなく世紀の大発見だった。
唯一、時東の味覚を刺激する料理を出してくれるという一点に置いて。ぽろりと零れたひとり言に、焦って時東は背後を振り返った。
よかった。いない。突っ込まれずにすむ。安堵を抱いて座り直してすぐ足音が戻ってきた。
「お帰り、南さん。――あ、おでんだ」
南が手にしていたそれに、自然と顔がほころぶ。タッパーに、缶ビールが二本。
「まだ温かいから、このままでいいだろ。おまえ、もう泊まってくよな? 酒飲める?」
「へ?」
「へ? って、おまえ、このあと東京まで戻るつもりだったの? 明日、朝から予定ないんだよな」
目を瞬かせた時東に、南はさも不思議そうな顔で答えを待っている。据わりが悪くなったのは、時東のほうだった。
「なんというか。南さん、不用心だな、と。俺が悪さしたら、どうするの?」
「俺よりどう考えても金持ってそうなのに?」
「わかんないじゃん、そんなの」
「なに。おまえ、まさかその年でギャンブルとかで、資産食い潰してんの?」
「いや、してないけど」
そこはさすがに否定しておきたい、人間的な信用の意味で。首を振った時東に、南は「なら、いいだろ」と缶を一本突き出してきた。
「あんまり無理な運転するなよ、おまえ。若いつもりか知らねぇけど。必要ないなら午前様に単車転がすなって」
「いや、……うん、仕事柄、普通の人より運転には気をつけてるつもりだけど。まぁ、そうだね」
もごもごと応じて、でも、まぁ、あれだな、と時東は納得することにした。俺より南さんのほうが強そうだもんな。自分のほうが一応身長は高いが、ガタイはそう変わらない。というか、腕相撲でもすれば、かなりの確率で負ける気がする。
缶ビールを受け取って、時東はへらりとほほえんだ。
いっそのこと、俺の笑顔で女の子みたいに南さんが絆されて、もっといっぱい料理を作ってくれたらいいのになぁ。それであわよくば俺の家まで持ってきてほしい。詮無いことを妄想しながら、缶を軽く持ち上げる。
「ね、ね、乾杯しよ。南さん」
「乾杯? なにに?」
面倒くさそうに缶のプルトップを開けて、南が視線を上げる。睨んでいるわけではないのだろうが、睨んでいるように見える。よく言って目力の強いタイプだ。とどのつまり、目つきが悪い。
はじめて見たときは、客商売に向いていない顔だと思ったが、そんなことはなかった。本当に人間、顔じゃない。
だって、南の店はものすごく落ち着くのだ。適度に放っておいてくれる南の接客は、ひどく居心地がいい。少なくとも、時東にとって。
「じゃあ、南さんに」
有無を言わせず、かちんと缶を当てに行って、ビールを口にする。次の瞬間、時東は瞠目した。味がする。南の手作りじゃないのに、味がした。苦みがあった。
「なんで俺だよ」
納得のいかない顔でぼやく南をまじまじと見つめ、時東は呟いた。
「いや、やっぱり南さん、俺の神様だわ、ガチで」
頭大丈夫か、おまえ、と言わんばかりの視線にも、時東の笑顔は崩れなかった。神様だと思えば、なんの支障もない。そうか、この人と食べれば味がするのか。
それは間違いなく世紀の大発見だった。
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