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第十三話
71.
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【13】
庄司と栞の結婚式当日は、夏らしい晴天だった。八月の初旬の眩しい太陽光に照らされながら歩く二人は幸せそうで、見ているだけでも優しいような気持ちになれるから不思議だ。
小さなチャペルでの挙式にしたのは、身内だけで執り行いたいと言う二人の希望が合致しての結果だったらしい。アットホームな雰囲気で進む式に参加しているのは近しい身内と友人だけのようで。友人席にいるのは、同じサークルに所属していた懐かしい面々ばかりだった。
「良かったよ、なんだかんだで元気そうで」
披露宴を終えて、二次会までの時間を潰すために数人で連れ立って喫茶店に移動している折だった。含みのない調子で笑いかけてきた真智ちゃんの指には指輪が光っている。
あの子にはもうしっかりとした良い彼氏が居るから、何も気にしないで。冬に会った時に念を押してくれたのは栞だったけれど、実際に彼女と顔を合わせたのは本当に久しぶりで。
そして元気そうなことに安心したのは、俺もだった。
「真智ちゃんも」
「まぁね。仕事も忙しいけど二年目で充実し始めたところだし、楽しいよ。ちゃぁんと、優しい彼氏もできたしね」
学生の頃よりもあか抜けた雰囲気で、笑う。
「実はね、社内恋愛なんだ。隣の課の二期上の人で格好良いんだよ。後で写真、見せてあげるね」
「楽しみにしてる」
「佐野くんはさ、今、付き合ってる人っているの?」
誤解しないでね、と付け加えられたのは、俺がどんな顔を見せたからだったのだろうか。
「昔より落ち着いたみたいだったから。それが、彼女さんの効果なら、良かったなって思ったの」
彼女。当然のように出てきた言葉に、「そうかもしれない」と応じれば、ほっとしたように彼女が続ける。
「そうなんだ。ちょっと心配してたから、勝手だけど安心した」
私が振ったのか振られたのかも分からないし、そもそもとして付き合ってたのかどうかも怪しい状態だったけどね、改めて思い返すと。
「どうせ佐野くんは、どう言う人と付き合ってるのかなんて教えてくれないと思うけど。どんな人であれ、そう言う顔ができるようになったのは、良いことだよ」
富原にしてもそうだけれど、そう言う風に言ってくれる人が居ることは、本当に有難いことで。人の運に恵まれていると思う。
「でも、一回だけ訊いてみようかな。どんな人なの?」
そう分かっていても、実際のところを言えない。その申し訳なさ払拭するように、言葉を探す。どんな人。俺と違って、誠実で、芯があって。自分のやりたい夢を叶えていて。何故か分からないほどにずっと、俺のことが好きなのだと言う、変なヤツ。
それで、――。
「幸せにしてやりたいなとは思う人」
俺が答えたのが予想外だったのか、真智ちゃんは驚いたように一瞬、表情を止めた。そうすると、昔の顔に近い。
「なんか、それ、ものすごい盛大なのろけだね。止めてよ、それ。その顔で学校でも生徒相手にのろけたりしてないでしょうね」
「しないから。と言うか、言わないし、そんなこと、誰にも」
「あ、あぁ。そうだね。そうだった。つい、うっかり、あんまりにも衝撃を受けて」
「衝撃って」
そんなに似合わないことを口にしたのだろうかとにわかに不安になってきたが、口に出してしまったものはどうにもならない。
「だって、佐野くん、絶対にそう言うことは言わないと思ってたし。と言うか、うーん」
言い淀むような間の後、結局、彼女はこう告げた。
「他力本願じゃない形で、そう言うことを言うイメージがなかったから」
庄司と栞の結婚式当日は、夏らしい晴天だった。八月の初旬の眩しい太陽光に照らされながら歩く二人は幸せそうで、見ているだけでも優しいような気持ちになれるから不思議だ。
小さなチャペルでの挙式にしたのは、身内だけで執り行いたいと言う二人の希望が合致しての結果だったらしい。アットホームな雰囲気で進む式に参加しているのは近しい身内と友人だけのようで。友人席にいるのは、同じサークルに所属していた懐かしい面々ばかりだった。
「良かったよ、なんだかんだで元気そうで」
披露宴を終えて、二次会までの時間を潰すために数人で連れ立って喫茶店に移動している折だった。含みのない調子で笑いかけてきた真智ちゃんの指には指輪が光っている。
あの子にはもうしっかりとした良い彼氏が居るから、何も気にしないで。冬に会った時に念を押してくれたのは栞だったけれど、実際に彼女と顔を合わせたのは本当に久しぶりで。
そして元気そうなことに安心したのは、俺もだった。
「真智ちゃんも」
「まぁね。仕事も忙しいけど二年目で充実し始めたところだし、楽しいよ。ちゃぁんと、優しい彼氏もできたしね」
学生の頃よりもあか抜けた雰囲気で、笑う。
「実はね、社内恋愛なんだ。隣の課の二期上の人で格好良いんだよ。後で写真、見せてあげるね」
「楽しみにしてる」
「佐野くんはさ、今、付き合ってる人っているの?」
誤解しないでね、と付け加えられたのは、俺がどんな顔を見せたからだったのだろうか。
「昔より落ち着いたみたいだったから。それが、彼女さんの効果なら、良かったなって思ったの」
彼女。当然のように出てきた言葉に、「そうかもしれない」と応じれば、ほっとしたように彼女が続ける。
「そうなんだ。ちょっと心配してたから、勝手だけど安心した」
私が振ったのか振られたのかも分からないし、そもそもとして付き合ってたのかどうかも怪しい状態だったけどね、改めて思い返すと。
「どうせ佐野くんは、どう言う人と付き合ってるのかなんて教えてくれないと思うけど。どんな人であれ、そう言う顔ができるようになったのは、良いことだよ」
富原にしてもそうだけれど、そう言う風に言ってくれる人が居ることは、本当に有難いことで。人の運に恵まれていると思う。
「でも、一回だけ訊いてみようかな。どんな人なの?」
そう分かっていても、実際のところを言えない。その申し訳なさ払拭するように、言葉を探す。どんな人。俺と違って、誠実で、芯があって。自分のやりたい夢を叶えていて。何故か分からないほどにずっと、俺のことが好きなのだと言う、変なヤツ。
それで、――。
「幸せにしてやりたいなとは思う人」
俺が答えたのが予想外だったのか、真智ちゃんは驚いたように一瞬、表情を止めた。そうすると、昔の顔に近い。
「なんか、それ、ものすごい盛大なのろけだね。止めてよ、それ。その顔で学校でも生徒相手にのろけたりしてないでしょうね」
「しないから。と言うか、言わないし、そんなこと、誰にも」
「あ、あぁ。そうだね。そうだった。つい、うっかり、あんまりにも衝撃を受けて」
「衝撃って」
そんなに似合わないことを口にしたのだろうかとにわかに不安になってきたが、口に出してしまったものはどうにもならない。
「だって、佐野くん、絶対にそう言うことは言わないと思ってたし。と言うか、うーん」
言い淀むような間の後、結局、彼女はこう告げた。
「他力本願じゃない形で、そう言うことを言うイメージがなかったから」
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