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5:エピローグ
124.幸せはきみのかたちをしている ⑦
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募った居た堪れなさに視線を逸らすと、ようやくテオバルドが「すみません」と謝罪を口にした。とは言っても、浮かんでいるのは、苦笑いのようなそれでしかない。
「その、……あなたが、そんなふうに考えてくれているとは思わなかったので」
「おまえは人をなんだと思ってるんだ」
聖人でもあるまいし、性欲がないはずがない。好きな相手と思い合ったというのなら、なおさらだ。
引っ込みがつかず、呆れたふうな言い方を選んだアシュレイに、宥めるような口づけをテオバルドが寄こした。
「大好きな私の師匠です」
そんな言葉ひとつで、つかなかったはずの引っ込みがついてしまうのだから、本当につくづくテオバルドに甘くできている。
しかたないと笑った唇を上から塞がれて、深くなるキスにアシュレイは無心で応えた。
慈しむようなキスを至るところに降らせながら、テオバルドの手が、なにも知らなかった身体をじわりと暴いていく。
ただ触られているだけなのに、声がこぼれそうになって戸惑う。けれど、我慢しないでください、とテオバルドが熱のこもった声で言うので、無駄に抗うことはやめた。テオバルドの願うことは、すべて叶えてやりたかったのだ。
「っん……」
香油でぬかるんだ指がうしろに触れる。その指が複数に増えて抜き差しをされると、こぼれる声にとうとう苦痛が混ざった。
身体を触られること自体がはじめてなのだから、そんなところを触られることも、あたりまえにはじめてだ。多少の違和感も痛みもしかたがない。
それなのに、律義にテオバルドが手を止めるので、アシュレイは汗ばんだ頬に手を伸ばした。
「……大丈夫だ」
「ですが」
気遣う心と欲求とで揺れる瞳が愛おしくて、ふっとほほえむ。
「おまえであれば、それで」
すべてを与えていい、と。ずっと前から決めている。そう言うと、テオバルドがふと黙り込んだ。ありすぎるくらい見覚えのある、なにかを堪えているような顔。
「――から、ことばっかり」
「なんだ?」
「なんでもないです」
不機嫌そうな声に瞳を瞬かせると、テオバルドが小さく息を吐いた。そうして、和らげた声音で言い直す。
「なんでもありません」
「だが」
「師匠」
それ以上の反論を防ぐような口づけだったが、甘んじてアシュレイは受け入れた。続けてもいいですか、という囁きに頷くと、再び指が内側を暴き始める。
「ふっ、……っ、ん……あ……っ」
違和感ばかりだった感覚に違うものが混ざり出したことは、あふれる声で明白だった。
慣れない感覚に、思わず目の前の肩に手を伸ばす。けれど、テオバルドは今度はやめなかった。
「その、……あなたが、そんなふうに考えてくれているとは思わなかったので」
「おまえは人をなんだと思ってるんだ」
聖人でもあるまいし、性欲がないはずがない。好きな相手と思い合ったというのなら、なおさらだ。
引っ込みがつかず、呆れたふうな言い方を選んだアシュレイに、宥めるような口づけをテオバルドが寄こした。
「大好きな私の師匠です」
そんな言葉ひとつで、つかなかったはずの引っ込みがついてしまうのだから、本当につくづくテオバルドに甘くできている。
しかたないと笑った唇を上から塞がれて、深くなるキスにアシュレイは無心で応えた。
慈しむようなキスを至るところに降らせながら、テオバルドの手が、なにも知らなかった身体をじわりと暴いていく。
ただ触られているだけなのに、声がこぼれそうになって戸惑う。けれど、我慢しないでください、とテオバルドが熱のこもった声で言うので、無駄に抗うことはやめた。テオバルドの願うことは、すべて叶えてやりたかったのだ。
「っん……」
香油でぬかるんだ指がうしろに触れる。その指が複数に増えて抜き差しをされると、こぼれる声にとうとう苦痛が混ざった。
身体を触られること自体がはじめてなのだから、そんなところを触られることも、あたりまえにはじめてだ。多少の違和感も痛みもしかたがない。
それなのに、律義にテオバルドが手を止めるので、アシュレイは汗ばんだ頬に手を伸ばした。
「……大丈夫だ」
「ですが」
気遣う心と欲求とで揺れる瞳が愛おしくて、ふっとほほえむ。
「おまえであれば、それで」
すべてを与えていい、と。ずっと前から決めている。そう言うと、テオバルドがふと黙り込んだ。ありすぎるくらい見覚えのある、なにかを堪えているような顔。
「――から、ことばっかり」
「なんだ?」
「なんでもないです」
不機嫌そうな声に瞳を瞬かせると、テオバルドが小さく息を吐いた。そうして、和らげた声音で言い直す。
「なんでもありません」
「だが」
「師匠」
それ以上の反論を防ぐような口づけだったが、甘んじてアシュレイは受け入れた。続けてもいいですか、という囁きに頷くと、再び指が内側を暴き始める。
「ふっ、……っ、ん……あ……っ」
違和感ばかりだった感覚に違うものが混ざり出したことは、あふれる声で明白だった。
慣れない感覚に、思わず目の前の肩に手を伸ばす。けれど、テオバルドは今度はやめなかった。
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