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4:魔法使いと弟子の永遠

112.星を言祝ぐ ①

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「本当に、眠っているだけなのですか」

 見守るようにベッド脇に座っていた緑の大魔法使いに、テオバルドは改めてそう確認を取った。実家のベッドに寝かされたアシュレイは、たしかにただ深く眠っているように見える。

 ――でも、倒れた場所が、せめて、ここでよかった。

 夜を越え、日が昇り、また日が沈む時間が近づいたころ、テオバルドはようやくグリットンに帰り着いた。森の家が無人だったときは肝が冷えたが、実家の店にいたと知ってほっとした。
 緑の大魔法使いまでいるとは思わなかったが、おそらく母の見立てで呼んだのだろう。魔法使いとしての母は、アイラと同様、薬草学に詳しかった。そうしてこの大魔法使いも。
 
「そうだね」

 その大魔法使いが、ゆったりとひとつ頷いた。

「まぁ、眠ったままの状態が続けば、いつか命は尽きると思うが」
「そんな、なにを悠長な……」

 他人ごとの調子に声を荒げそうになったテオバルドだったが、ぐっと呑み込んだ。そうして、アシュレイに視線を移す。

 ――本当に、ただ眠っているだけみたいだ。

 けれど、もし本当に眠っているだけであれば、すぐそばで会話をしていたら、きっとすぐに目を覚ます。そういう人だと、テオバルドは知っていた。だから、そうならないということは、これはではないのだ。
 小さく息を吐いて、再び視線を緑の大魔法使いに向ける。

「これは、そもそも、私にかけられていた加護が関係していることですよね」
「そうだね」
「だったら、私になにかできることはありませんか」

 本来であれば、自分が負うはずだったものだ。真剣に尋ねたテオバルドに、緑の大魔法使いはほんのわずか目を瞠ったあと、いかにも楽しそうに肩を揺らし始めた。

「……なにがおかしいのですか」
「いや、失礼」

 かたちだけは謝罪を示したものの、緑の大魔法使いはまだくすくすと笑っている。

「その馬鹿な健気さと言えばいいのかな。まさしくこれの弟子だと思ったというだけだ。だが、安心するといい。これは、きみが命を張るような、そんな大層なことではない」
「え……」

 すべてわかっているという大魔法使いの態度に、テオバルドには戸惑った。

「では、なぜ、あなたはなにもしようとしないのですか。師匠の師匠なのですよね」
「もちろん」

 にこりと緑の大魔法使いがほほえむ。

「私はほとんど話したこともない孫弟子より、赤子のころから育てた弟子のほうがはるかにかわいい。そういう意味で、ぜひ信用してくれ」
「では」

 今、言うべきことではない。わかっていたのに、夏のころから募った不信が言葉になってこぼれおちた。

「私の同期も、――アイラの命も軽んじましたか。新薬が完成するならそれでいい、と。たかだか凡庸な魔法使いのひとりだと」
「自分の同期を凡庸とは、きみもなかなかひどいことを言う」

 苦笑まじりに首をひねって、緑の大魔法使いはそう答えた。

「たしかに彼女は、私や私の弟子に比べると凡庸だが、秀才だ。これからを期待してもいる。私の発破が、もし彼女を無謀に走らせたというのなら、謝ろう。だが、そんな真実かどうかわからないことを議論している場合かな」
「それは」

 と言ったところで、テオバルドは言葉を止めた。あなたを信用できないからだと口にすることは、さすがにできなかったのだ。
 悔しいが、今この状況を良い方向に転がすことができる人物がいるとすれば、それは自分ではなく、大魔法使いこの人だ。それに――。

 ――俺が未熟でなければ、こんなことには……。

 手のひらを握り込んだテオバルドをとっくり見つめていた大魔法使いが、ふっとほほえむ。

「北の僻地から、私に遅れること一日でたどり着いたご褒美だ。呪いを解く方法を教えよう」
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