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4:魔法使いと弟子の永遠

106.悔いと未来 ①

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 ああ、これは、もしかすると死んだかもしれない。

 そんなどこか他人事の心地で、アシュレイは自分を見下ろしていた。
 自分の身体を見下ろしているということは、今の自分は意識体ということになるのだろうか。生き戻ることがあれば、ぜひ研究してみたいところではある。

 ――が、それはそれとして、少しばかり申し訳ないことをしてしまったな。
   
 イーサンの店は、てんやわんやの大騒ぎになっている。それは、まぁ、前触れもなく人間がぶっ倒れたら、真っ青にもなることであろう。おまけに自分は「森の大魔法使いさま」だ。
 どうしたものか、と無意識に顎に手を当てる。申し訳ないという感情はあるものの、どうすれば戻ることができるのかわからないのだ。
 
 ――そもそもの話だが、これは俺の意志でどうにかできる問題なのか?

 テオバルドに与えた加護の対価を「自分」にしたのは、かつてのアシュレイだ。無事に発動しているので、おそらくテオバルドに怪我はないであろう。それはそれでいい。自分の望んだことだ。
 だが、この現状は、自分の予想を超えている。大魔法使いであろうとも、すべてが予想どおりに進むとは限らないということか。
 久方ぶりの困惑を持て余しながら、天井に近い梁に腰を下ろす。そうこうしているうちに、急ぎ客に連れ戻されたらしいエレノアが血相を変えて飛び込んできた。

「アシュレイ!」

 そのまま思いきりよく人の身体を揺さぶり始めたので、ぎょっとする。薬草学に長けた魔法使いがする行動ではないだろうと呆れたからだ。
 もう少し慎重に扱えと言ってやりたい気分で見下ろしたエレノアの顔色は、いやに青白かった。完全に血の気が引いている。

 ――そんな顔をする必要はないだろうに。

 居た堪れなくなったアシュレイは、そっと視線を外した。
 大昔のことを思い出してしまったのだ。泣く以外なにもできないというふうにイーサンに取りすがっていた、小さなエレノア。 
 
「ちょっと、アシュレイ! なにやってるのよ、あなた、大魔法使いなんじゃないの!?」

 その情の深さに、溜息がこぼれた。おそらく。おそらくではあるが、自分は死んではいないのだろう。
 だが、死んでいないとすれば、いつまでこの茶番を見続けないとならないのか。まったくもって見当がつかない。

 ……いや、だが、このまま放っておけば、いずれは死ぬだろうな。

 さすがに、そのあたりは「人間」であると信じたいところだ。けれど、こんな騒ぎを見ることになるのなら、きれいに死んだほうがよほど楽だったな、とも思う。
 自分の失態で――予想外の事態に陥った上に制御も修正もできていないのだから、失態に違いない――、気を揉まれている現状が、どうにも落ち着かなかったのだ。
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