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4:魔法使いと弟子の永遠

101.冬の最果て ③

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「なんでもない、大丈夫だよ」
「だが」
「それは、まぁ、ジェイが言ったとおりで、この空気だし、この寒さだしね。多少はうんざりとしてるかもしれないけど、それだけ。大型をきっちり仕留めたら、俺たちのほうが一区切りだ。早く戻るためにもしっかりやるよ」
「……そうだな」

 にこりとほほえめば、ジェイデンはそれ以上は言わなかった。お互い、もう子どもではないのだ。大丈夫と請け負えば、そこまでの話である。
 あの寮にいたころ、自分は精神的に本当に子どもだった。師匠に対して抱いていた感情のおかしさにも、まったく気がついていなくて、ジェイデンが知るきっかけを与えてくれた。
 そんな聡い彼に、今の自分がどう見えているのかと聞く勇気はない。

 ――でも、あのまま自覚しなかったら、「良い弟子」でいられたのかな。

 父のことが好きだったのか、などと邪推することなく。ここまで苦しい思いをすることもなく。よくわからなかった。
 そうであれば、楽になるだろうとは思う。でも、たとえ叶わなくとも、彼を好きだという気持ちをなかったことにはしたくなかった。

 ――帰ったら、ちゃんと話そう。

 言い逃げをなかったことにして会いに行くことは簡単かもしれないけれど、いいかげん、こちらも区切りをつけないといけないのかもしれない。
 言わないと決めていたはずのことがこぼれ落ちてしまうようになったら、それは、もう駄目なのだ。内心でひとつ頷いて、テオバルドは夜を見上げた。
 いつどこで見ても変わらず月は美しくて、やはり、あの人みたいだと思った。



「特殊任務の重要性も承知しているが、おまえが無理と判断したら、無理やりにでも引き上げさせて構わない」

 隣に立った隊長に囁かれて、テオバルドは目線を動かした。

「昨日の中型でも、失敗しているからな。意地になる可能性があるが、中型と大型じゃ攻撃力も生命力も桁違いだ」

 過去に幾度も大型の魔獣討伐に参加している隊長の言葉には重みがあった。はい、と小さく頷く。
 戻した視線の先。十数メートル先の綿密に張り巡らされた巨大な魔法陣の中央では、目標であった大型の魔獣が倒れ伏している。
 事前に用意した魔法陣に誘い込み、動きを封じた上で、攻撃力の高い魔法で仕留める。それが、大型の魔獣を討伐する際の、一般的な手順だ。
 けれど、今回は、動きを封じたところで、テオバルドたちは「待て」を余儀なくされていた。薬草学研究所の魔法使いたちが最終調整を始めたからだ。
 その調整が終わり次第、とうとう薬を打ち込むことになる。
 
「昨日はレオが腕を吹っ飛ばされかけたで済んだが、『かけた』じゃ済まない」
「承知しました」

 念を押されて、テオバルドも改めてしっかりと頷いた。
 大型の魔獣はぐったりとしてはいるものの、死んでいるわけでも、意識を失っているわけでもない。その証拠に、冷たい風の音には獣の低い唸り声が混ざっていた。
 声から発される威圧だけで、討伐経験の少ない若手は青くなってしまっているほどだ。念には念を、と。魔法陣だけでなく、四方から中堅の魔法使いが魔法で押さえ込んでいるが、これから行うことは、今まで誰も手を付けたことのない領域だ。緊張をするなというほうが無理な話だろう。
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