不老の魔法使いと弟子の永遠

４：魔法使いと弟子の永遠

97．幸福のかたち ④

　沈黙を貫いていると、イーサンが苦笑った。

「あの森にふたりでいたころだけならまだしも、学院に入って、そこからさらに宮廷に勤めても変わらなかったんだ。おまえの気持ちもわかるが、そこは認めてやらないとしかたないだろう」

　自分が一番だということを、か。酒を呑む気にもならないまま、アシュレイも笑った。

「だが、きちんと好いた女はいるようだぞ」
「好いた女？　テオバルドにか」
「なにを驚く。モテていると言っていたのはおまえだろう」

　ずいと身を乗り出されて、眉をひそめる。軽く身を引いたアシュレイは、そのまま店内をちらりと見渡した。
　エンバレーから戻って以降、ここでテオバルドと一緒になったのはあの一度きりだが、町娘が「テオバルドはいつ戻るのか」と尋ねてくる場面に居合わせた回数は、数度では済まない。

「宮廷勤めの上に、あの見た目だ。親の俺が言うのもなんだとは思うが、まぁ、モテてはいる。だが、そういった条件でキャーキャーと言われることと、あいつが心から好いた人間ができるというのは、まったくべつの話だろう」
「そういうものか」
「そういうものだろう。女遊びくらいは、失敗しない程度にすればいいと思っていたが。しかし、そうか。好いた女か。テオバルドがそう言っていたのか？」
「まぁ、……」

　女だとは言っていなかったが。だが、とアシュレイは思い返す。

　――私には、ずっと好きな人がいるんです。

　そう告白した、テオバルドの真摯な瞳。そのときはどこの誰かまではわからなかったが、本気の相手なのだろうということはわかった。
　子どものころから育てた、ただひとりの弟子なのだ。昔ほど素直に感情を表に出さなくなったとは言えど、そのくらいのことはわかるつもりでいる。

　――てっきり人妻かと気を揉んだが、同期の優秀な魔法使いが相手だというのであれば、俺が反対をする謂れもないことだ。

　おまけに、エレノアが続けていた研究を発展させた功労者だ。エレノアもイーサンも喜ぶことだろう。若く才能のある魔法使い同士。誰からも祝福される契りだ。
　仮に今回の思いが実らなかったとしても、宮廷に勤めていれば、いくらでも同年代の魔法使いと出会う機会はある。テオバルドであれば、いずれ正しい相手を見初めるはずだ。
　そうして、子どもを産み育てればいい。イーサンと、エレノアのように。

「はっきりと相手まで聞いたわけではないが。ずっと好きな人がいる、というようなことは言っていたな」
「へぇ」

　驚いているのかなんなのか読めない調子で、イーサンが呟く。

「あいつがねぇ」