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4:魔法使いと弟子の永遠

96.幸福のかたち ③

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「俺がなにを言わなくても、自分でそのうち気づくと思うが」
「そうだろうな」

 なにせ、真実でもなんでもない、余計なことである。
 目を伏せたまま、アシュレイは小さく笑った。水面に映る自分の顔は、これもイーサンが言ったとおりで、たしかに気鬱そうだった。まったく本当にろくでもない。

「べつに、俺も、たいしたことは言われていない。ただ、いつまでもそばには置いておけないと改めて思ったというだけだ」
「なぜだ?」
「なぜもなにも、あたりまえだろう。あれはもう子どもではない」

 そもそも、十五になるときに手放したつもりだったのだ。これ以上深入りしないように、と。
 師匠としては見守るが、不必要な干渉はしない。離れた場所から、たまに成長を知るだけで十分だ。そう思っていたし、それが正しい判断であったはずだった。
 それなのに、弟子かわいさで必要以上の交流を続けてしまった。だから、このあたりが潮時なのだろう。これ以上は、駄目だ。執着を生んでしまう。

 ――そう理解しただけ、良しとせねばならないのだろうな。

 そう。一度人の輪から外れた自分が、ぬくもりを欲していいはずがないのだ。ましてや、ともに年を重ねたいなどと願っていいはずもない。
 言い切ったアシュレイに、イーサンは、なにか迷うような表情を見せた。その顔を見つめて首を傾げれば、しかたないというふうに眉が下がる。
 表情と同じ穏やかな声が、「あのなぁ、アシュ」とこの男しか使わない愛称を静かに奏でた。

「師匠が弟子に言う分には、止めるつもりはないが。ただのおまえがテオバルドに言うつもりなら、少し考えろ」
「なぜだ」
「あいつが、もう子どもじゃないからだよ」

 自分の言った「子どもではない」と正反対の意味合いがにじむそれに、アシュレイは緑の瞳を瞬かせた。同じ緑の瞳を持つ育ての親以外で、はじめて自分の瞳をきれいだと慈しんでくれたのは、イーサンだった。
 褒められたからうれしかったわけではない。異質だと弾かないでいてくれたことが、膨大な魔法の才を持っていた自分を、あくまでもただの同期生だと扱ってくれたことが、うれしかったのだ。
 あのころのイーサンがいたから、自分は今、地面を踏みしめて生きることができている。

「今度は、拗ねてツンケンとされるだけじゃ、済まなくなるぞ」
「……」
「懲りたと言っていただろう」
「だが、あれは」
「そうだな、あれは、大魔法使いとしての建前があった。だから、テオバルドも拗ねてはいたが、どうにか呑み込んだんだろう」

 建前と言い切られて、アシュレイは閉口した。正しく背を押した判断をしたつもりだったからだ。面と向かって告げることを放棄したという点は、自分にも非はあろうが。
 
「まぁ、おまえと呑むのが楽しくて、矛を収めたという部分もありそうだがな。あいつは、昔から、なによりも誰よりも、おまえが一番にできている」
 
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