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4:魔法使いと弟子の永遠
85.波紋 ③
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友人を置いてわざわざ追いかけてきたのか、テオバルドはひとりだった。おまけに、なにも言わないくせに、やたらと物言いたげな目をしている。
しかたなく、アシュレイはもうひとつ問いかけた。
「そもそも、おまえは仕事中だろう」
「それは、……そうなのですが」
「なら、こんなところで師匠相手に油を売っていないで、仕事に戻れ」
歯切れの悪い態度に、ほら、見たことか、という気分で、戻るように促す。根の真面目な人間が似合わない行動を取るから、こうもぎこちなくなるのだ。
なぜ、似合わない行動を取っているのか、という点には着目しないまま、おざなりに続ける。
「イーサンのようなことを言わせるな」
「父のような、ですか」
「店に顔を出すたびに、休憩だのなんだのと都合の良いことを言って、居座っていただろう」
それと同じだと言えば、テオバルドがかすかに眉根を寄せた。幼いころにも見た覚えのある、不満のあるときの顔。
「私は、父とは違います」
「なにを言っている、あたりまえだ。あいつに対するようなことを言わせるなと言ったんだ」
そういえば、イーサンの話を出すと、そういう顔をすることがあったな。そうアシュレイは思い返した。似ていると評したことはあっても、比べた覚えはなかったのだが、テオバルドにとっては同義だったのだろうか。
うんざりと否定して、その顔を見上げる。イーサンとエレノアの息子であることに変わりはない。だが、テオバルドは、アシュレイにとって、ただテオバルドだ。
「納得したのなら、もう戻れ。それとも、なんだ。急ぎの用でもあったのか?」
「そういうわけでもないのですが」
不満の表情を引っ込めたテオバルドが、わずかな逡巡を経て口を開いた。
「その、師匠が、急に進む方向を変えられた気がしたので」
「薬草園に行く予定を取りやめただけだ。もともと、薬草学研究所に用があっただけだったからな。その用事ももう済んだ」
「薬草学研究所に、ですか?」
テオバルドの視線が、驚いたように薬草学研究所の方向に動く。それには答えず、アシュレイはフードを被り直した。まだ匂うが、我慢できないほどではない。
声をかけられた直後は刺さる視線もあったが、それも今はもう感じることはなかった。
「おまえの同期だという女にも会った。たしかに、なかなか優秀だ」
「え、……あぁ、アイラですか。そうですね、彼女は学院に在籍していたころから、特に薬草学に秀でていました」
「そうか」
柔らかな言い方にある種の満足を覚えて、静かに頷く。この子どもの世界を広げようとしたのは、かつての自分だ。
「あの、師匠?」
それがどうかしましたか、と言わんばかりの問いかけに、フードの下で頭を振る。
「会ったというだけだ。おまえが気にするようなことは話してはいない」
「気にするような、というのは」
「そのままの意味だ」
切り捨てるように告げて、アシュレイは今度こそ話を切り上げた。
「いいかげんに戻れ。おまえの問いには答えただろう」
正直なことを言えば、テオバルドがあの距離の時点でこちらに気がついているとは思っていなかったのだが、師匠としては喜ぶべき成長なのかもしれない。
しかたなく、アシュレイはもうひとつ問いかけた。
「そもそも、おまえは仕事中だろう」
「それは、……そうなのですが」
「なら、こんなところで師匠相手に油を売っていないで、仕事に戻れ」
歯切れの悪い態度に、ほら、見たことか、という気分で、戻るように促す。根の真面目な人間が似合わない行動を取るから、こうもぎこちなくなるのだ。
なぜ、似合わない行動を取っているのか、という点には着目しないまま、おざなりに続ける。
「イーサンのようなことを言わせるな」
「父のような、ですか」
「店に顔を出すたびに、休憩だのなんだのと都合の良いことを言って、居座っていただろう」
それと同じだと言えば、テオバルドがかすかに眉根を寄せた。幼いころにも見た覚えのある、不満のあるときの顔。
「私は、父とは違います」
「なにを言っている、あたりまえだ。あいつに対するようなことを言わせるなと言ったんだ」
そういえば、イーサンの話を出すと、そういう顔をすることがあったな。そうアシュレイは思い返した。似ていると評したことはあっても、比べた覚えはなかったのだが、テオバルドにとっては同義だったのだろうか。
うんざりと否定して、その顔を見上げる。イーサンとエレノアの息子であることに変わりはない。だが、テオバルドは、アシュレイにとって、ただテオバルドだ。
「納得したのなら、もう戻れ。それとも、なんだ。急ぎの用でもあったのか?」
「そういうわけでもないのですが」
不満の表情を引っ込めたテオバルドが、わずかな逡巡を経て口を開いた。
「その、師匠が、急に進む方向を変えられた気がしたので」
「薬草園に行く予定を取りやめただけだ。もともと、薬草学研究所に用があっただけだったからな。その用事ももう済んだ」
「薬草学研究所に、ですか?」
テオバルドの視線が、驚いたように薬草学研究所の方向に動く。それには答えず、アシュレイはフードを被り直した。まだ匂うが、我慢できないほどではない。
声をかけられた直後は刺さる視線もあったが、それも今はもう感じることはなかった。
「おまえの同期だという女にも会った。たしかに、なかなか優秀だ」
「え、……あぁ、アイラですか。そうですね、彼女は学院に在籍していたころから、特に薬草学に秀でていました」
「そうか」
柔らかな言い方にある種の満足を覚えて、静かに頷く。この子どもの世界を広げようとしたのは、かつての自分だ。
「あの、師匠?」
それがどうかしましたか、と言わんばかりの問いかけに、フードの下で頭を振る。
「会ったというだけだ。おまえが気にするようなことは話してはいない」
「気にするような、というのは」
「そのままの意味だ」
切り捨てるように告げて、アシュレイは今度こそ話を切り上げた。
「いいかげんに戻れ。おまえの問いには答えただろう」
正直なことを言えば、テオバルドがあの距離の時点でこちらに気がついているとは思っていなかったのだが、師匠としては喜ぶべき成長なのかもしれない。
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