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4:魔法使いと弟子の永遠
75.青星 ①
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深緑のフードの下から、アシュレイは王都の空をそっと見上げた。今にも雪が降り出しそうな色をしている。今年はどうも冬が早いらしい。
雪だらけの辺境の地からようやく戻ったというのに、またあっというまに冬に舞い戻ってしまいそうだ。心地の良い時間は、いつも一瞬で過ぎてしまう。
――森の家の冬支度もしておかないと、テオバルドに要らぬ世話を焼かせそうだな。
自分が不在にしていたあいだ、律義に月に一度は手を入れてくれていたという愛弟子は、今も変わらぬ頻度でグリットンの森に顔を出す。
イーサンとエレノアに顔を見せに来たついでと涼しい顔で言っているが、そうであるのなら森にまで来なくともいいだろうとアシュレイは思ってしまう。
まったく、そういうところが、本当に昔から変わらない。
過分に世話を焼きたがり、師匠が一番だと衒いのない笑顔で言ってのける幼い弟子。おそらく、アシュレイは狭い世界に籠めすぎてしまったのだ。
――だから、自分の道を行け、と念を押しただけのつもりだったのだが。
テオバルドの魔法学院卒業にあわせて送った手紙のことである。
そもそもで言うと、アシュレイは、宮廷の誘いを弟子が蹴りやしないかと長らく冷や冷やしていたのだ。ほかにしたいことがあるというのならともかく、断る理由が「グリットンの森に帰りたい、師匠に会いたい」ではあんまりだろう。
だから、戻りたいと手紙で拙い心境を吐露されるたびに、卒業さえすれば、いつでも帰ってくることはできるだろう、この国で一番進んだ魔法の研究をできるのは宮廷だ、云々。押しつけがましくなりすぎないよう伝え続けたのだ。
結果として、テオバルドが正しく宮廷魔法使いの道を選んだときは、師匠としての役目に区切りがついた、と。アシュレイは本当にほっとした。
ずっと保留にしていたエンバレー行きの打診を受けたのも、テオバルドの正しい選択に安堵したからにほかならない。
ちょうどいいタイミングだろうと師匠離れを促したことも、師匠心というやつだったのだが。やはり、自分は言葉が足りていなかったのかもしれない。
――随分と拗ねてたみたいだぞ、テオのやつ。
そうひっそりとイーサンに明かされたのは、数日前のことだ。
――はっきり言うと、あいつも気恥ずかしいだろうと思って、反抗期じゃないのか、とは言ったけどな。実際のところ、おまえに置いて行かれたのが随分とショックだったみたいだぜ。あぁ、いや、おまえに置いて行ったつもりがないことはわかるし、あいつも頭では理解していると思うがな。七つのころからおまえにベタベタに甘やかされていたんだ。感情が追いつかなかったんじゃないか?
だから、なかなか、おまえに素直になれなかったんだろう。まぁ、最近のおまえの話を聞くに、それも吹っ切れたようだが。おかしそうに笑ったイーサンは、最後にぽんと困惑するアシュレイの肩を叩いた。
――大人になった弟子と呑むのも、師匠冥利に尽きるってやつじゃないのか、か。
本来であれば、そうであるのだろうな。白い息を吐いて、アシュレイは足を速めた。
遠征から戻ってきてからというもの、なし崩しに王都での仕事が増えたので、こちらにもひとつ部屋を借りたのだ。
師匠であるルカは、部屋が余っているから自分のところにくればいいと鷹揚にほほえんでいたが、顔を出したら最後、うっかり実験台にされかねない。あの師匠は、自分が「大魔法使い」という同じ土壌に立った瞬間、本当に好き勝手をしてくるようになったのだ。
雪だらけの辺境の地からようやく戻ったというのに、またあっというまに冬に舞い戻ってしまいそうだ。心地の良い時間は、いつも一瞬で過ぎてしまう。
――森の家の冬支度もしておかないと、テオバルドに要らぬ世話を焼かせそうだな。
自分が不在にしていたあいだ、律義に月に一度は手を入れてくれていたという愛弟子は、今も変わらぬ頻度でグリットンの森に顔を出す。
イーサンとエレノアに顔を見せに来たついでと涼しい顔で言っているが、そうであるのなら森にまで来なくともいいだろうとアシュレイは思ってしまう。
まったく、そういうところが、本当に昔から変わらない。
過分に世話を焼きたがり、師匠が一番だと衒いのない笑顔で言ってのける幼い弟子。おそらく、アシュレイは狭い世界に籠めすぎてしまったのだ。
――だから、自分の道を行け、と念を押しただけのつもりだったのだが。
テオバルドの魔法学院卒業にあわせて送った手紙のことである。
そもそもで言うと、アシュレイは、宮廷の誘いを弟子が蹴りやしないかと長らく冷や冷やしていたのだ。ほかにしたいことがあるというのならともかく、断る理由が「グリットンの森に帰りたい、師匠に会いたい」ではあんまりだろう。
だから、戻りたいと手紙で拙い心境を吐露されるたびに、卒業さえすれば、いつでも帰ってくることはできるだろう、この国で一番進んだ魔法の研究をできるのは宮廷だ、云々。押しつけがましくなりすぎないよう伝え続けたのだ。
結果として、テオバルドが正しく宮廷魔法使いの道を選んだときは、師匠としての役目に区切りがついた、と。アシュレイは本当にほっとした。
ずっと保留にしていたエンバレー行きの打診を受けたのも、テオバルドの正しい選択に安堵したからにほかならない。
ちょうどいいタイミングだろうと師匠離れを促したことも、師匠心というやつだったのだが。やはり、自分は言葉が足りていなかったのかもしれない。
――随分と拗ねてたみたいだぞ、テオのやつ。
そうひっそりとイーサンに明かされたのは、数日前のことだ。
――はっきり言うと、あいつも気恥ずかしいだろうと思って、反抗期じゃないのか、とは言ったけどな。実際のところ、おまえに置いて行かれたのが随分とショックだったみたいだぜ。あぁ、いや、おまえに置いて行ったつもりがないことはわかるし、あいつも頭では理解していると思うがな。七つのころからおまえにベタベタに甘やかされていたんだ。感情が追いつかなかったんじゃないか?
だから、なかなか、おまえに素直になれなかったんだろう。まぁ、最近のおまえの話を聞くに、それも吹っ切れたようだが。おかしそうに笑ったイーサンは、最後にぽんと困惑するアシュレイの肩を叩いた。
――大人になった弟子と呑むのも、師匠冥利に尽きるってやつじゃないのか、か。
本来であれば、そうであるのだろうな。白い息を吐いて、アシュレイは足を速めた。
遠征から戻ってきてからというもの、なし崩しに王都での仕事が増えたので、こちらにもひとつ部屋を借りたのだ。
師匠であるルカは、部屋が余っているから自分のところにくればいいと鷹揚にほほえんでいたが、顔を出したら最後、うっかり実験台にされかねない。あの師匠は、自分が「大魔法使い」という同じ土壌に立った瞬間、本当に好き勝手をしてくるようになったのだ。
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