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3:不老の魔法使い
67.帰りつくところ ⑤
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それからは、ぽつぽつと離れていたあいだのことを話した。
学院にいるあいだの三年は手紙でよく知らせてくれていたが、卒業してからの三年の話はどれも新鮮だった。
昨日の夜に聞いた話も、もしかすると混ざっていたのかもしれないが。テオバルドが「そこまで話していませんよ」と言うので、気遣いに甘えることにした。あいかわらず、よくできた弟子である。
「北の大地は魔獣が多いと聞きましたが」
「年に寄るという話だったが、多い印象はあったな。フレグラントルにいたら、そう大型の魔獣にはお目にかからないだろう。俺も大型を葬ったのはひさしぶりだった」
抱えた杖に目を向けて、アシュレイは応じた。あの土地にいた四年は、魔獣と見合うことは日常茶飯事だった。
「どういう仕組みなのかは今後解明したいところだが、あのあたりは魔力の強いものが生まれやすいのだろうな」
だからこそ、希少な薬草も群生していたのだろう。
嬉々としてルカが採取した薬草の大半は宮廷に預けられたが、果たしてそのうちのいくつにめぼしい成果が出ることやら。
薬草学研究所は大変だろうと水を向けると、テオバルドが笑って頷いた。
「つい先日も、すごい匂いだとあなたに言われましたが、なかなか忙しいは忙しいようですよ」
ですが、と穏やかな調子でテオバルドは続ける。
「私の同期で薬草学に長けた者がいるのですが、緑の大魔法使いさまがよく顔を出してくださると喜んでいました」
「女か?」
「は? ――あぁ、いや、アイラは女ですが、女ではなく。いえ、お互いただの友人だという話で……、なにを笑っているのですか、師匠」
「いや、すまない。このあいだイーサンの店で聞いたときとは、反応がひどく違うと思ってな」
喉を鳴らしたアシュレイに、テオバルドはひどく決まりの悪い顔をした。その顔がかわいくて、もう少しからかいたくなってしまったが、どうにか笑いをおさめる。あまりからかいすぎるものでもないだろう。
コーヒーを一口飲んで、宥めるように声をかける。
「そう恥ずかしがることもないだろう。あの学院でともに学んでいるうちに、そういう感情を抱く相手ができたとしても、なにもおかしなことではない」
「違います」
慌てたふうに、テオバルドが首を振った。
「本当に違いますし、それに、私にはずっと好きな人がいるんです」
意外な返答に、思考が一瞬停止した。
……いや、だが、そういう相手がいてもおかしくはない、か。
イーサンは、浮いた話はあっても遊びばかりのようだと嘆いていたが、叶わぬ恋でもしているのだろうか。そうでなければ、遊んだりなどしないだろう。なにせ、テオバルドである。
「テオバルド」
「なんですか。誰かは言いませんよ」
「言わなくてもいいが、人妻はやめておけよ。いくらおまえが好いていても叶わない思いというものもある」
「……違います」
痛いところを突きすぎたのか、返答は苦々しかった。
「もういいです。この話は終わりにしましょう」
学院にいるあいだの三年は手紙でよく知らせてくれていたが、卒業してからの三年の話はどれも新鮮だった。
昨日の夜に聞いた話も、もしかすると混ざっていたのかもしれないが。テオバルドが「そこまで話していませんよ」と言うので、気遣いに甘えることにした。あいかわらず、よくできた弟子である。
「北の大地は魔獣が多いと聞きましたが」
「年に寄るという話だったが、多い印象はあったな。フレグラントルにいたら、そう大型の魔獣にはお目にかからないだろう。俺も大型を葬ったのはひさしぶりだった」
抱えた杖に目を向けて、アシュレイは応じた。あの土地にいた四年は、魔獣と見合うことは日常茶飯事だった。
「どういう仕組みなのかは今後解明したいところだが、あのあたりは魔力の強いものが生まれやすいのだろうな」
だからこそ、希少な薬草も群生していたのだろう。
嬉々としてルカが採取した薬草の大半は宮廷に預けられたが、果たしてそのうちのいくつにめぼしい成果が出ることやら。
薬草学研究所は大変だろうと水を向けると、テオバルドが笑って頷いた。
「つい先日も、すごい匂いだとあなたに言われましたが、なかなか忙しいは忙しいようですよ」
ですが、と穏やかな調子でテオバルドは続ける。
「私の同期で薬草学に長けた者がいるのですが、緑の大魔法使いさまがよく顔を出してくださると喜んでいました」
「女か?」
「は? ――あぁ、いや、アイラは女ですが、女ではなく。いえ、お互いただの友人だという話で……、なにを笑っているのですか、師匠」
「いや、すまない。このあいだイーサンの店で聞いたときとは、反応がひどく違うと思ってな」
喉を鳴らしたアシュレイに、テオバルドはひどく決まりの悪い顔をした。その顔がかわいくて、もう少しからかいたくなってしまったが、どうにか笑いをおさめる。あまりからかいすぎるものでもないだろう。
コーヒーを一口飲んで、宥めるように声をかける。
「そう恥ずかしがることもないだろう。あの学院でともに学んでいるうちに、そういう感情を抱く相手ができたとしても、なにもおかしなことではない」
「違います」
慌てたふうに、テオバルドが首を振った。
「本当に違いますし、それに、私にはずっと好きな人がいるんです」
意外な返答に、思考が一瞬停止した。
……いや、だが、そういう相手がいてもおかしくはない、か。
イーサンは、浮いた話はあっても遊びばかりのようだと嘆いていたが、叶わぬ恋でもしているのだろうか。そうでなければ、遊んだりなどしないだろう。なにせ、テオバルドである。
「テオバルド」
「なんですか。誰かは言いませんよ」
「言わなくてもいいが、人妻はやめておけよ。いくらおまえが好いていても叶わない思いというものもある」
「……違います」
痛いところを突きすぎたのか、返答は苦々しかった。
「もういいです。この話は終わりにしましょう」
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