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3:不老の魔法使い

66.帰りつくところ ④

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 ――まぁ、もちろん、なにを考えているのかと思うことも、いくつもあるわけだが。

 少し前にも、随分と擦れたなと驚いたばかりである。
 とは言え、別々の人間なのだ。他人の思考など完全にわかるわけもないのだから、当然のことだろうとも思う。
 幼いテオバルドに、言いたいことがあるなら、言え。黙っていてもわからない、と何度も言い諭したのは、ほかでもない自分だ。
 その結果として、森にいたころは素直によく喋ってくれていたが、同じ状況を今のテオバルドに期待することは酷だろう。

 広場の一角に腰を下ろして、数分。コーヒーに口をつけたところで、アシュレイは隣を見やった。言いたいことがあるのかないのか、よくわからない顔をしている。

「休みの日は、いつもこんなふうなのか」

 昔と同じ調子で言い諭す代わりに、アシュレイはそう問いかけた。
 コーヒーを買っているときも、店主と親しげに話しているふうだったから、馴染みの店ではあったのだろう。テオバルドが王都で過ごした四年が垣間見えて、感慨が深かった。
 自分の知らない人間関係をしっかりと築いているのだな、と。そんなあたりまえのことを痛感したのだ。
 まぁ、愛想の良かったテオバルドは、町に下りるたびには、よく話しかけられ、かわいがられていたが。

「あぁ、……いや、そうですね」
 
 はっとしたように苦笑したテオバルドが、沈黙を誤魔化すようにコーヒーを持ち上げた。
 
「勉強会に参加することもありますが、研究所に向かうことが多いですね。あそこは器具が揃っているので」
「なんだ、休みの日も研究三昧か」
「あなたも似たようなものだったではないですか」

 懐かしそうなほほえみに、アシュレイも思わず目元を笑ませた。たしかに、あのころは、自分もテオバルドも暇があれば本を読んでいたな、と思う。

「あとは、そうですね」

 ひとりごちるように呟いて、テオバルドが軽く空を見上げた。雲ひとつない晴天が眩しい。

「忙しいときは叶いませんが、月に一度はグリットンに顔を出すようにしています」
「ほう」
「あなたが、父と母を安心させる方法を教えてくれたからだと思います。おかげで自然と足が向くようになりました」

 月に一度。幼かったテオバルドを連れてイーサンの店に顔を出していたことを、そんなふうに捉えていてくれたらしい。イーサンの推察どおりだった事実に、アシュレイは小さく笑った。

「そうか」

 ――随分と擦れたと思ったのは、杞憂だったのかもしれないな。
  
 変わった部分はあっても、根本のところはなにも変わらず、かわいいテオバルドのままだ。

「そうやって月に一度、グリットンに顔を出して、あなたの家も勝手ながら片づけて」
「……」
「いつあなたが戻ってきても大丈夫な環境を整えて、あなたの帰りを待っていました」

 空を向いていた視線が、ゆっくりとこちらに動く。再会して以来、一番穏やかな瞳だった。それと同じ声が、師匠、と自分を呼ぶ。

「お戻りをお待ちしていました。無事に戻ってきてくれて、本当によかった。おかえりなさい」

 予想していなかた台詞に、ぱしりと瞳を瞬かせる。その反応に、テオバルドがわずかに眉を下げた。

「すみません。もっと早くに言えばよかったのに、意地を張りました」
「……いや」

 イーサンに出迎えてもらったときとは、また少し違うこそばゆさ。あたたかな感情を抱いたまま、アシュレイはそっと言葉を継いだ。大切にしたかったのだ。

「ありがとう、テオバルド。ただいま戻った」
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