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3:不老の魔法使い

54.帰郷 ④

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「そうか?」

 悩むようにイーサンが首をひねる。

「俺からすると、あまり変わらんように思えるが」
「……そうか」
「まぁ、そうは言っても、俺よりおまえと過ごした時間のほうがもう長いだろう。おまえの感覚のほうが正しい気もするが、と。お、噂をすれば、テオじゃねぇか。よう、テオ」

 アシュレイの背後、入口に向かって、イーサンが軽く手を上げる。その名前と感じ取った気配に、アシュレイも振り返った。
 あのころより強く濃くなっているものの、根本は同じだ。それに、アシュレイは一度覚えた気配は忘れない。馴染んだものであれば、なおさらだ。
 目が合ったテオバルドが、驚いたように星の瞳を瞬かせる。店にいるあいだ、要らぬ威圧感を与えぬよう気配を消していたことは事実だが、気がつかなかったのだろうか。

「師……」
「テオバルドさん!」

 視界に割り込んだ娘の背中に、アシュレイは無言のまま姿勢を戻した。困惑している様子が丸わかりで、それは、まぁ、父親の店で――おまけに父親がいる前で迫られたら、やりづらいだろうと思ったからだ。
 エレノアが席を外していたことは幸いだったかもしれないが、テオバルドからすれば、自分も似た立ち位置の人間だろう。

「テオバルドさん、ひさしぶりです。覚えてますか? エリンです。先月の夜はハリエットと出かけられたと聞いたんですけど、今日は私とどうですか」
「ちょっと、エリン、抜け駆けしないでよ」
「なによ、あんたが出遅れるから悪いんでしょう? ねぇ、どうですか」

 きゃいきゃいと響く高い声を背に、苦笑ひとつで酒を呷る。最近の娘は、アシュレイの想像をはるかに超えて積極的だ。今はそういうものなのだろうか。
 森に引き籠っていた期間が長い上に、つい最近まで僻地にいたので、まったくよくわからない。

 ――しかし、先月はハリエットと、か。

 どんな娘かは知らないが、町の娘に興味はないふうだった十二、三のころのテオバルドと違い、今のテオバルドはそれなりに遊んでいるらしい。
 グラスを置いて、無意識に首をひねったアシュレイに、ほらな、とにやけた顔でイーサンが囁く。

「モテるんだよ、俺の息子は」
「勝手なことばかり言わないでください」

 苦々しい声に、視線を持ち上げる。聞き慣れているようで聞き慣れない、大人になったテオバルドの声。テーブルのすぐそばに立って見下ろすテオバルドは、声同様の苦りきった顔をしていた。
 あまり見たことのない表情だったのだが、イーサンは頓着しなかった。

「なんだよ、テオ。照れんなよ、いまさらじゃねぇか」

 能天気とも取れる父親の台詞に、そういうことではなく、とテオバルドが苦言を呈そうとしたタイミングで、会計を求める声が上がった。先ほどの娘たちである。
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