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3:不老の魔法使い

44.プロローグ ①

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 親愛なる私の弟子、テオバルドへ。

 卒業を直接祝ってやることができなくてすまない。おまえがこの手紙を見るとき、おそらく俺はこの国にはいないだろう。王命と言えば、今のおまえには十分な説明になるだろうか。
 詳しく書くことはできないが、そもそもとして、必要のない話であるのかもしれないな。おまえは、学院を首席で卒業し、宮廷の魔法使いとなる人間だ。もう師匠の加護は必要ないだろう。
 テオバルド。宮廷に勤めることを決めたおまえの判断は、正しい。
 素直なおまえは師匠のあとを追わねばと考えていたのだろうが、学院に入ってわかったはずだ。だからこそ、正しい道を選んだのだろう。
 おまえはそのままおまえの道を行けばいい。
 人生のほんのひと時、おまえの師であった者として、おまえの幸せを心より願っている。

 最後に貰ったその手紙を、師匠からの決別と捉えた自分の判断が正しかったのか、そうでなかったのか。
 四年が経って二十二才になった今も、テオバルドは答えを出せないでいる。



「テオバルド先輩! すみません、ちょっといいですか?」

 高い声に呼び止められて、宮廷の離れにある総合研究部を出ようとしていたテオバルドとジェイデンは足を止めた。

「あぁ、なに。ミリー、どうしたの?」
「今晩の祝賀会のことで、いくつか確認したいことがあって」

 宮廷お仕着せの濃紺のローブをまとったミリーが、進行をまとめた紙面をぺらりとめくる。それを覗き込んだテオバルドは、ひとつひとつ一緒に確認を始めた。
 王立魔法学院の三学年後輩にあたる彼女は、宮廷に入ってちょうど一年が経ったばかり。まだ新人と言っていい年次で、同じチームに所属している直属の後輩である。よく頼ってくれるので、よほど忙しくしていない限りは、テオバルドもゆっくり時間を取るようにしていた。

「うん。それで大丈夫。ありがとう、ミリー。忙しくなると思うけど、よろしくね」
「はい、ありがとうございました」

 幼さの残る顔にはにかんだ笑みを浮かべて、ミリーが頭を下げる。晩夏の光に照らされた金色の髪が眩しくて、テオバルドはふっと目を細めた。

 ――懐かしい色だな。

 師匠であったアシュレイの髪の色と、どこか似ている。

 アシュレイは、宮仕えを決めた自分の選択を正しいと手紙で評していたけれど、そのとおりだった。
 この国で一番高度な研究を続けることのできる場所だ。魔法使いとしての能力を高めていく上で最適な環境だろう。
 もちろん、有事の際には率先して出兵することになる身だが、この数十年、幸いなことにフレグラントル王国は戦火に脅かされていない。この平和が長く続けばいいと思う。
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