不老の魔法使いと弟子の永遠

木原あざみ

文字の大きさ
上 下
38 / 139
2:魔法使いの弟子

37.あるひとつの終焉 ④

しおりを挟む
「テオバルド先輩。最終の実技試験、お疲れさまでした。在校生席から拝見させていただきましたが、大変勉強になりました。一位の成績おめでとうございます。それで、あの、卒業式のあとのプロムなのですが、まだお相手が決まっていらっしゃらないのであれば、立候補させていただけないでしょうか」

 三年生の最終実技試験の結果が出揃い、あとは卒業の日を待つだけ、となった王立魔法学院は、ちょっとした愛の告白シーズンになっていた。

 自分を呼び出した後輩に思いを告げられたテオバルドは、またかという感情を呑み込んだ。断ることには、どうにも慣れない。
 女の子が精いっぱいという感じで訴えてくるから、なおさらである。

 ――でも、だからって、引き受けるわけにもいないからなぁ。

 緊張に震える少女をしっかりと見つめ直して、「申し訳ないけど」と断りの文句を告げる。テオバルドなりの誠意のつもりだ。
 どれほどかわいいと評判の女の子でも、あるいは、それなりにいい子だと知っている女の子でも、まったくそういう気にならないのだ。
 なにせ、学院生が主催するプロム自体が億劫で、卒業式が終わり次第、グリットンに帰りたいと思っているくらいである。
 ジェイデンに頼むからやめてくれと縋りつかれたので、実行委員長である彼の顔を立てて参加しようと思い直したものの、気乗りしないことに変わりはない。

「おまえなぁ、テオバルド。卒業する前に楽しまなくていいのか? 今日、おまえを誘いに来たの、二年のグレースだろ。あの子、美人で有名なんだぜ?」
「美人……、まぁ、たしかに、整った顔立ちはしていた気はするけど、顔ってそんなに重要かな」

 どうだったと聞かれたから顛末を正直に話したのに、信じられないという顔をされてしまった。
 自分の机で杖の手入れをしていたテオバルドは、ジェイデンの反応に首を傾げる。杖の手入れは、眠る前に欠かさず行う大事な日課だ。

 ――グリットンの森に帰ったら、新しい杖の相談をしないと。

 この杖は、学院に入る前にアシュレイがつくり直してくれたものだ。許可をもらって、はじめてテオバルドも一緒に手を入れたもの。けれど、三年が過ぎ、少し足りなくなってしまった。
 成長の証なので、素直に誇らしい。新しい杖の構想はできているから、相談しながらひとりでつくってみたいと思う。
 学院を卒業すれば、見習いではなく魔法使いになるのだ。いつまでも、師匠の加護を受けているわけにはいかないだろう。
 丁寧に手入れを続けるテオバルドに、「たしかに顔はそこまで重要ではないかもしれないが」とジェイデンが言う。どこか呆れ半分といった調子だ。

「なら、テオバルドは、どんな子ならいいんだ? それとも、まだ、師匠に追いつくのに必死で、恋愛に興味はないとでも?」
「そうだな。そうかもね」

 何年か前に言った覚えのある台詞に、テオバルドは笑った。

「師匠はとんでもなくすごい人だから。師匠に誓って努力を続けてきたけど、まだまだ追いつける気がしないよ。だから宮廷に勤めようと決めたんだ」

 自分自身をより高め、師匠の名に恥じない弟子になることができるように。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

処理中です...