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2:魔法使いの弟子
37.あるひとつの終焉 ④
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「テオバルド先輩。最終の実技試験、お疲れさまでした。在校生席から拝見させていただきましたが、大変勉強になりました。一位の成績おめでとうございます。それで、あの、卒業式のあとのプロムなのですが、まだお相手が決まっていらっしゃらないのであれば、立候補させていただけないでしょうか」
三年生の最終実技試験の結果が出揃い、あとは卒業の日を待つだけ、となった王立魔法学院は、ちょっとした愛の告白シーズンになっていた。
自分を呼び出した後輩に思いを告げられたテオバルドは、またかという感情を呑み込んだ。断ることには、どうにも慣れない。
女の子が精いっぱいという感じで訴えてくるから、なおさらである。
――でも、だからって、引き受けるわけにもいないからなぁ。
緊張に震える少女をしっかりと見つめ直して、「申し訳ないけど」と断りの文句を告げる。テオバルドなりの誠意のつもりだ。
どれほどかわいいと評判の女の子でも、あるいは、それなりにいい子だと知っている女の子でも、まったくそういう気にならないのだ。
なにせ、学院生が主催するプロム自体が億劫で、卒業式が終わり次第、グリットンに帰りたいと思っているくらいである。
ジェイデンに頼むからやめてくれと縋りつかれたので、実行委員長である彼の顔を立てて参加しようと思い直したものの、気乗りしないことに変わりはない。
「おまえなぁ、テオバルド。卒業する前に楽しまなくていいのか? 今日、おまえを誘いに来たの、二年のグレースだろ。あの子、美人で有名なんだぜ?」
「美人……、まぁ、たしかに、整った顔立ちはしていた気はするけど、顔ってそんなに重要かな」
どうだったと聞かれたから顛末を正直に話したのに、信じられないという顔をされてしまった。
自分の机で杖の手入れをしていたテオバルドは、ジェイデンの反応に首を傾げる。杖の手入れは、眠る前に欠かさず行う大事な日課だ。
――グリットンの森に帰ったら、新しい杖の相談をしないと。
この杖は、学院に入る前にアシュレイがつくり直してくれたものだ。許可をもらって、はじめてテオバルドも一緒に手を入れたもの。けれど、三年が過ぎ、少し足りなくなってしまった。
成長の証なので、素直に誇らしい。新しい杖の構想はできているから、相談しながらひとりでつくってみたいと思う。
学院を卒業すれば、見習いではなく魔法使いになるのだ。いつまでも、師匠の加護を受けているわけにはいかないだろう。
丁寧に手入れを続けるテオバルドに、「たしかに顔はそこまで重要ではないかもしれないが」とジェイデンが言う。どこか呆れ半分といった調子だ。
「なら、テオバルドは、どんな子ならいいんだ? それとも、まだ、師匠に追いつくのに必死で、恋愛に興味はないとでも?」
「そうだな。そうかもね」
何年か前に言った覚えのある台詞に、テオバルドは笑った。
「師匠はとんでもなくすごい人だから。師匠に誓って努力を続けてきたけど、まだまだ追いつける気がしないよ。だから宮廷に勤めようと決めたんだ」
自分自身をより高め、師匠の名に恥じない弟子になることができるように。
三年生の最終実技試験の結果が出揃い、あとは卒業の日を待つだけ、となった王立魔法学院は、ちょっとした愛の告白シーズンになっていた。
自分を呼び出した後輩に思いを告げられたテオバルドは、またかという感情を呑み込んだ。断ることには、どうにも慣れない。
女の子が精いっぱいという感じで訴えてくるから、なおさらである。
――でも、だからって、引き受けるわけにもいないからなぁ。
緊張に震える少女をしっかりと見つめ直して、「申し訳ないけど」と断りの文句を告げる。テオバルドなりの誠意のつもりだ。
どれほどかわいいと評判の女の子でも、あるいは、それなりにいい子だと知っている女の子でも、まったくそういう気にならないのだ。
なにせ、学院生が主催するプロム自体が億劫で、卒業式が終わり次第、グリットンに帰りたいと思っているくらいである。
ジェイデンに頼むからやめてくれと縋りつかれたので、実行委員長である彼の顔を立てて参加しようと思い直したものの、気乗りしないことに変わりはない。
「おまえなぁ、テオバルド。卒業する前に楽しまなくていいのか? 今日、おまえを誘いに来たの、二年のグレースだろ。あの子、美人で有名なんだぜ?」
「美人……、まぁ、たしかに、整った顔立ちはしていた気はするけど、顔ってそんなに重要かな」
どうだったと聞かれたから顛末を正直に話したのに、信じられないという顔をされてしまった。
自分の机で杖の手入れをしていたテオバルドは、ジェイデンの反応に首を傾げる。杖の手入れは、眠る前に欠かさず行う大事な日課だ。
――グリットンの森に帰ったら、新しい杖の相談をしないと。
この杖は、学院に入る前にアシュレイがつくり直してくれたものだ。許可をもらって、はじめてテオバルドも一緒に手を入れたもの。けれど、三年が過ぎ、少し足りなくなってしまった。
成長の証なので、素直に誇らしい。新しい杖の構想はできているから、相談しながらひとりでつくってみたいと思う。
学院を卒業すれば、見習いではなく魔法使いになるのだ。いつまでも、師匠の加護を受けているわけにはいかないだろう。
丁寧に手入れを続けるテオバルドに、「たしかに顔はそこまで重要ではないかもしれないが」とジェイデンが言う。どこか呆れ半分といった調子だ。
「なら、テオバルドは、どんな子ならいいんだ? それとも、まだ、師匠に追いつくのに必死で、恋愛に興味はないとでも?」
「そうだな。そうかもね」
何年か前に言った覚えのある台詞に、テオバルドは笑った。
「師匠はとんでもなくすごい人だから。師匠に誓って努力を続けてきたけど、まだまだ追いつける気がしないよ。だから宮廷に勤めようと決めたんだ」
自分自身をより高め、師匠の名に恥じない弟子になることができるように。
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