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2:魔法使いの弟子

35.あるひとつの終焉 ②

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 丸い眼鏡の奥で瞳を笑ませたアイラが、「それで」と楽しげに問い重ねてくる。

「あなたのお母さんがなにを研究されていらっしゃるか、あなたは知っているの?」
「えぇと……」 
「薬草による魔力の安定と増幅の研究。女性の魔法使いにはね、多かれ少なかれ魔力が不安定になる時期があるの。とても有意義で素晴らしい研究だと思うわ」
「魔力の安定と増幅」

 おうむ返しにテオバルドは繰り返した。母からもだが、父や師匠からも聞いたことはない話だ。
 けれど、わざわざ言うようなことではない、と。それぞれに考えていただけかもしれない。

「魔法使いの界隈も男の人が多いから、そういった研究は遅れがちなのよ。だからこそ、とても意義のあることだと思うのだけれど、なんと、それだけではなくてね」

 ふふ、とわくわくを抑えきれないように、アイラが手を叩いた。きらきらとした瞳がいかにも無邪気で、ほほえましい。

「緑の大魔法使いさまも、この研究をご支援されていらっしゃるそうなの。本当にお優しい方! 今は国を離れていらっしゃるけれど、戻ってこられたらきっと百人力だわ」
「アイラは、本当に緑の大魔法使いさまを尊敬してるんだね」

 アシュレイを尊敬してやまないという自分の主張も、こんなふうに見られているのかもしれない。そうおのれの言動を省みつつも、テオバルドはほほえんだ。
 
 ――緑の大魔法使いさまに助けられたから、自分も誰かを助けたいってよく言ってるもんな。

 アイラが薬草学に没頭する最たる理由だろう。大魔法使いを目標とする者同士、邁進する姿に、いつも刺激をもらっている。
 だからと言って、学友たちがからかうような「好き合っている」関係ではないのだが。

「そうよ。だから、成績上位を維持して、宮廷に入りたいの。宮廷の薬草学研究所なら、緑の大魔法使いさまと一緒に研究をすることもできるかもしれないから。だから負けないわよ」
「俺も負ける気はないけど。お互いがんばろう」

 冗談めかした宣戦布告に、テオバルドも笑って応じた。

「このあいだの試験、ハロルドに負けて六位だったのよ。どうにか五位を維持しないと、宮廷勤めの希望を出す資格もなくなっちゃう」
「狭き門だからね」

 同意する調子で、そう頷く。
 春にある実技試験で、最終成績はほぼ確定になる。その結果を持って、成績優秀者にのみ宮廷で務めるか否かの打診がくるのだ。

 ――卒業したら、すぐにでも師匠のところに帰ろうと思ってたけど。

 入学して一年ほどは、本当にそのつもりだった。今も会いたいという気持ちに変わりはない。けれど、高度な研究をできる場所で学びを続けたいという気持ちが芽生えた。アシュレイも手紙で後押しをしてくれたし、それに、とテオバルドは思う。
 宮仕えは学院とは違う。王都からグリットンまでは乗り合い馬車で行くことのできる距離だ。朝に出れば昼前には着く。会おうと思えば、いつでも会うことはできる。
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