不老の魔法使いと弟子の永遠

木原あざみ

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2:魔法使いの弟子

33.冬の月のような人 ⑤

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 尊敬する師匠へ。 

 師匠。この学院に入って、一年のうちの半分が過ぎました。王都で迎える、はじめての冬です。こちらでも先日とうとう雪が降りました。
 グリットンの森も深く積もってはいないでしょうか。案ずる必要はないと仰られるとわかっていても、ふとした瞬間に師匠のことが頭に浮かびます。
 つい先ほども、窓から見えた月がきれいで、師匠のことを思い出しました。俺の髪は夜の色で、瞳は星の色だと、師匠はよく仰っていましたが、俺は月を、とくに冬の月を見ると、なぜか師匠が浮かびます。
 凛とした空気が似ているからなのかなと考えましたが、もしかすると、もっと単純に会いたい気持ちが強まっているからかもしれません。

 少し話は変わりますが、学業についてご報告です。
 ついこのあいだはじめての試験がありました。ご存じと思いますが、筆記と実技を組み合わせたものです。努力が実り、一番の成績をいただくことができました。タイラー先生にもお褒めの言葉をいただいたので、師匠の教えの賜物ですとお答えしておきました。
 少し驚いたお顔をされたあと、「きみは思ったより父親に似ているな」と仰ったので、俺も少し驚きました。父のことを――タイラー先生もベイリー先生同様長く勤めていらっしゃるので、ご存じだったとは思うのですが、言及をされたことははじめてだったので。
 
 後日、ベイリー先生にお聞きしたところ、父はもう少し喧嘩早かったと笑っておられました。父が感情的に怒っているところを見たことはなかったので、それも少し驚きでした。でも、二十年前であれば、違ったのかもしれないですね。
 ベイリー先生から師匠たちのお話をお聞きすることはとても楽しいのですが、同じ時代を過ごしてみたかったなぁと思うことがあります。無理な話と承知しているので戯言として聞いてください。
 師匠とこの学院で三年間を過ごすことができていたら、きっとすごく楽しかっただろうな。そうしたら、三年間会えないということもなかったのに。そう思ってしまうのです。
 でも、師匠の弟子にもなりたいので、やっぱり今のままでいいのかもしれません。だから、あと二年半しっかりがんばります。
 立派な魔法使いになって師匠のもとに帰るので、待っていてください。

 追伸。いけ好かない相手がいるという俺の愚痴に「石だとでも思えばいい」とのご助言ありがとうございました。石だと思って接してみたところ、興を削がれたようで、必要以上に絡まれることはありませんでした。大変ありがとうございます。
 今後もそのつもりでやっていきます。同じ魔法使いを志す者同士、仲良くすることができればという気持ちもありますが、俺から折れることはできそうにありません。これも「喧嘩早い」というのでしょうか? ジェイデンを見習って、俺も大人になれるよう努めていこうと思います。

 それでは、師匠。寒くなって参りましたので、身体にお気をつけてお過ごしになってください。お忙しいとは存じますが、またお返事いただけるとうれしいです。

 あなたの弟子、テオバルドより。
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