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1:箱庭の森

14.花祭りの夜 ①

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 豊作と夏の訪れを祝う花祭りの日、グリットンの町は年一番の賑わいを見せる。
 昼間から広場で酒を呑み、音楽を奏で、思い思いに歌い、踊る。そんな馬鹿騒ぎが、この日ばかりは夜通し続くのだ。

 ――年に一度くらいであれば、悪くはないものだな。

 こういった騒がしい夜も。なによりもテオバルドが楽しそうだ。
 町の子どもたちの輪に混ざる弟子の様子に、アシュレイはそっと目を細めた。森の大魔法使いであるアシュレイに、すすんで話しかけに来る者もそういない。
 石段で静かに酒を呑んでいると、軽やかな足音が近づいてきた。

「はぁい、アシュレイ。楽しんでる?」

 あいかわらずの仏頂面ね、と笑ったエレノアは、持っていた皿を石段に置くと、あたりまえの調子で隣に腰を下ろした。
 おまえこそあいかわらずの気ままさだな、と返す代わりに、ちらりとした視線を向ける。ほほえんで応えたエレノアは、ひとりの時間を邪魔したとは微塵も思っていないふうだった。

「エレノア」
「お酒ばっかりじゃなくて、適当になにか食べなさいよ。あの人、森からあなたが出てくるたびに、アシュレイは、アシュレイは、ってあなたの心配ばかりしてるんだから」
「……」
「本当に、あなたのこと何才だと思ってるのかしらね。もしかすると、テオバルドと変わらない年だと思っているかもしれないわよ」
「そんなわけがないだろう」

 あってたまるか、とフードの下でアシュレイは顔をゆがめた。
 そもそも、花祭りの日のイーサンは、大忙しで店を回しているはずで、いい年の男の心配などしている暇もないはずだろう。
 そう。見た目の年齢がいくつであろうと、アシュレイはいい年なのだ。

 ――それなのに、なにが「見た目と一緒に中身も時が止まってる」、だ。

 テオバルドとどこでそんな話をしたのかは知らないが、あんまりな言いようである。それなのに、そうかしら、とエレノアが首を傾げた。

「うちの人、私に、息子テオバルドじゃなくて、あなたの様子を見てきてくれって言ったわよ。食べる?」
「……けっこうだ」

 差し向けられた皿を一瞥して、首を横に振る。
 レモンカード・タルトレットとフルーツ・ティーローフ、生クリームのたっぷりかかったストロベリー。甘いものを好まない自分への嫌がらせとしか思えないラインナップだったからだ。

「だと思った」

 予想どおりの反応に満足したのか、子どものようにエレノアが笑う。
 溜息を返したアシュレイに、エレノアはさらに大きな笑い声を立てた。本当に、あいかわらず気ままで失礼な女である。
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