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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅣ 7 ⑩
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「たしかに、高藤も、俺とたいして変わんないのかもね」
「え?」
「すごい、かっこいいって思い過ぎてたかもしれないなってこと。まぁ、すごいとは思うけど、そうじゃないところもあるよねって」
これもあたりまえなんだろうけど、怖いなぁ。言われたときはそうだろうって思っても、ついさっき実感するまで、ぜんぜんしっくりきてなかったんだよ。そう笑った四谷の顔は、こちらが置いて行かれたような気分になるくらい、すっきりとしていて。
「まぁ、いいや。とにかく話せてよかったし。ありがとう。榛名にもう部屋戻っていいよって言っておくけど、いいよね?」
「あ、……うん。それは、もちろん」
榛名の部屋でもあるのだし。どちらかと言わなくとも、勉強の邪魔をしてしまっているし。了承を示すと、もう一度、ありがとう、と言ったのを最後に、四谷は部屋を出て行った。
――なんか、本当に、すごいすっきりした顔してたな、四谷。
明日の朝会っても、たぶん、本当に、なにごともなかった態度を取ってくれるんだろうな、と安易に予想できる程度には。
少しでもすっきりしてくれたのならよかったと素直に思う。告白したことですっきりしたというよりは、自分の言動に呆れて見切りをつけたという雰囲気はあったけれど。四谷の言ったとおりで、皓太は自分が「すごい」などと思ったことはない。そういう意味でも、目を覚ましてくれたのならよかったのかもしれない。
それに、とも少しだけ皓太は思った。
――俺がよく見せたいってちょっとでも思う相手に限って、「すごい」なんてまったく思ってないだろうし。
表面上の自分でなく中身を見てもらっているのだと言えば、そうなのかもしれないけれど。着たままになっていた制服のブレザーを脱いでハンガーにかける。ついでに机で鞄を片づけていると、どことなくためらいがちに扉が開く気配がした。榛名だ。
「ごめん、部屋追い出して」
四谷から聞いているだろうにもの言いたげな視線を向けられている気がして、先手を打って謝罪を述べる。結果的に四谷はすっきりとしてくれたようだったけれど、あった内容を自分が吹聴することは違うと思ったからだ。
「ぜんぜん、べつに。その、……前から聞いてたし」
「そう」
「うん」
やはりどことなくぎこちない調子の相槌だった。自分の椅子を引いた榛名が、机に放置されていたシャープペンシルを手に取る。件の提出が危ないという課題のプリントに目を落としてもいるものの、問題について考えているわけではない雰囲気だ。
気になるの、と問うのは、ずるいんだろうな。そう承知していたので、皓太はなにも気づいていないふりをした。だって、自分だって困ってしまう。
そう、たとえば。榛名に、成瀬に告白をすると言われたとしても。どうしたほうがいいかと相談されたとしても。きっと自分はなにも言えなくなってしまう。
「え?」
「すごい、かっこいいって思い過ぎてたかもしれないなってこと。まぁ、すごいとは思うけど、そうじゃないところもあるよねって」
これもあたりまえなんだろうけど、怖いなぁ。言われたときはそうだろうって思っても、ついさっき実感するまで、ぜんぜんしっくりきてなかったんだよ。そう笑った四谷の顔は、こちらが置いて行かれたような気分になるくらい、すっきりとしていて。
「まぁ、いいや。とにかく話せてよかったし。ありがとう。榛名にもう部屋戻っていいよって言っておくけど、いいよね?」
「あ、……うん。それは、もちろん」
榛名の部屋でもあるのだし。どちらかと言わなくとも、勉強の邪魔をしてしまっているし。了承を示すと、もう一度、ありがとう、と言ったのを最後に、四谷は部屋を出て行った。
――なんか、本当に、すごいすっきりした顔してたな、四谷。
明日の朝会っても、たぶん、本当に、なにごともなかった態度を取ってくれるんだろうな、と安易に予想できる程度には。
少しでもすっきりしてくれたのならよかったと素直に思う。告白したことですっきりしたというよりは、自分の言動に呆れて見切りをつけたという雰囲気はあったけれど。四谷の言ったとおりで、皓太は自分が「すごい」などと思ったことはない。そういう意味でも、目を覚ましてくれたのならよかったのかもしれない。
それに、とも少しだけ皓太は思った。
――俺がよく見せたいってちょっとでも思う相手に限って、「すごい」なんてまったく思ってないだろうし。
表面上の自分でなく中身を見てもらっているのだと言えば、そうなのかもしれないけれど。着たままになっていた制服のブレザーを脱いでハンガーにかける。ついでに机で鞄を片づけていると、どことなくためらいがちに扉が開く気配がした。榛名だ。
「ごめん、部屋追い出して」
四谷から聞いているだろうにもの言いたげな視線を向けられている気がして、先手を打って謝罪を述べる。結果的に四谷はすっきりとしてくれたようだったけれど、あった内容を自分が吹聴することは違うと思ったからだ。
「ぜんぜん、べつに。その、……前から聞いてたし」
「そう」
「うん」
やはりどことなくぎこちない調子の相槌だった。自分の椅子を引いた榛名が、机に放置されていたシャープペンシルを手に取る。件の提出が危ないという課題のプリントに目を落としてもいるものの、問題について考えているわけではない雰囲気だ。
気になるの、と問うのは、ずるいんだろうな。そう承知していたので、皓太はなにも気づいていないふりをした。だって、自分だって困ってしまう。
そう、たとえば。榛名に、成瀬に告白をすると言われたとしても。どうしたほうがいいかと相談されたとしても。きっと自分はなにも言えなくなってしまう。
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