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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅣ 6 ⑨
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抱え込んでしまう四谷の気持ちは、行人にはよくわかる気がした。自分の嫌なところを自分の好きな人に知られたくはないし、「べつに、そんなこと、言えばいいだろう」なんてことは第三者だから言えることだと思う。
でも、水城の気持ちは考えてもわからなかった。自分の抑制剤を盗ったときは、わかりたくはないけれど、意図はわかった。だが、今回のそれは、――行人に想像力が足りないだけかもしれないけれど――面白がってちょっとからかっているだけ、というふうにしか思えなかったのだ。
それが理由と言われてしまえば、それまででしかないのだけれど。
「引っ掻き回したいからだろ」
「です、よね」
なにをあたりまえのことを、と言わんばかりの声が紡いだ返事は、行人の想像と大差のないものだった。そのとおりなのだろう。けれど、じゃあ、どう割り切ればいいのだろう。そう思ったことが伝わったのだろうか。淡々とした教示が続く。
「それが嫌なら、引っ掻き回される隙を作らないようにするしかない」
「……ですよね」
「それか、文字通り叩きのめして追い出すか」
どちらかしかないだろうというふうなそれに、行人はどうにか頷いた。共存するために強くなるか、追い出すか。言っていることはわかる。でも。
「でも」
視線を落として、行人は希望を引き出すように呟いた。
「変わったりしないかなって」
四谷と自分の関係が変わったように。いつだったか高藤にも妙な期待はするなと言われたことがある。ああいうタイプとまともにやり合っても、行人が負けるだけだと。でも、同じ時間を生きている人間なのに、本当になにも変わらないのだろうか。
言葉にしてしまってから、自分でも堂々巡りのことを言っているなぁと呆れたけれど、同じように思われてしまったらしい。舌打ちを呑み込んだような溜息がひとつ響いて、向原が言う。吐き捨てるような調子だった。
「時間の無駄だろ。相手に変わることを期待するのは」
「え……」
「自分が変えるしかない」
勝手には相手は変わらないから、自分が変えるしかない、ということだったのか。相手は変わらないのだから、自分自身を変えるしかない、ということだったのか。わからなかったけれど、それ以上を問うことはできなかった。
「あれ、榛名。本当に待ってたんだ。しかも、踊り場」
上から降ってきた四谷の声に、はっとして顔を上げる。ひとりに戻ってからつい考え込んでしまっていたらしい。階段を下りてきた四谷に「どうかした?」と問われ、行人はぎこちなく笑った。
でも、水城の気持ちは考えてもわからなかった。自分の抑制剤を盗ったときは、わかりたくはないけれど、意図はわかった。だが、今回のそれは、――行人に想像力が足りないだけかもしれないけれど――面白がってちょっとからかっているだけ、というふうにしか思えなかったのだ。
それが理由と言われてしまえば、それまででしかないのだけれど。
「引っ掻き回したいからだろ」
「です、よね」
なにをあたりまえのことを、と言わんばかりの声が紡いだ返事は、行人の想像と大差のないものだった。そのとおりなのだろう。けれど、じゃあ、どう割り切ればいいのだろう。そう思ったことが伝わったのだろうか。淡々とした教示が続く。
「それが嫌なら、引っ掻き回される隙を作らないようにするしかない」
「……ですよね」
「それか、文字通り叩きのめして追い出すか」
どちらかしかないだろうというふうなそれに、行人はどうにか頷いた。共存するために強くなるか、追い出すか。言っていることはわかる。でも。
「でも」
視線を落として、行人は希望を引き出すように呟いた。
「変わったりしないかなって」
四谷と自分の関係が変わったように。いつだったか高藤にも妙な期待はするなと言われたことがある。ああいうタイプとまともにやり合っても、行人が負けるだけだと。でも、同じ時間を生きている人間なのに、本当になにも変わらないのだろうか。
言葉にしてしまってから、自分でも堂々巡りのことを言っているなぁと呆れたけれど、同じように思われてしまったらしい。舌打ちを呑み込んだような溜息がひとつ響いて、向原が言う。吐き捨てるような調子だった。
「時間の無駄だろ。相手に変わることを期待するのは」
「え……」
「自分が変えるしかない」
勝手には相手は変わらないから、自分が変えるしかない、ということだったのか。相手は変わらないのだから、自分自身を変えるしかない、ということだったのか。わからなかったけれど、それ以上を問うことはできなかった。
「あれ、榛名。本当に待ってたんだ。しかも、踊り場」
上から降ってきた四谷の声に、はっとして顔を上げる。ひとりに戻ってからつい考え込んでしまっていたらしい。階段を下りてきた四谷に「どうかした?」と問われ、行人はぎこちなく笑った。
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