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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅣ 6 ④
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「ごめん」
「なんで謝るの? 俺が保健室に通い慣れてたから?」
「……それもあるけど」
自嘲と棘の混じった返しに気まずさを抱きながらも、行人は認めた。間違いなく四谷は怒るとわかっていたけれど、それでも、どうしてもひとりに追い込んでしまったように見えたのだ。
行人の頭にある四谷のイメージが、友人に囲まれたものであったせいもあると思う。でも、それだけではなくて。
「その、四谷はきついことも言うし、腹の立つことも言うけど、でも、ぜんぶ自分で言葉にするだろ。少なくとも、俺は、四谷に陰湿ないじめみたいなのをされた覚えはなくて」
「……」
「だから、今回、はっきりとした理由を言ってくれなかったのは、言えない事情があったんじゃないかと思って。でも、その事情が俺にはぜんぜんわからなくて、だから、ごめん」
たとえば、自分がもっと、成瀬や茅野とまでは言わなくても、高藤や荻原くらい人間ができていたら。そうでなくても、岡たちのように四谷にもっと信頼してもらえている人間だったら。言われなくてもわかったかもしれないし、もっとうまくできたかもしれないし、四谷も打ち明けてくれたかもしれない。
でも、今の自分ではそんなふうには到底できない。できることがあるとすれば、自分の思いを変に隠さず伝えることだけだ。できれば、四谷に間違わず届いてほしいとは思うけれど。
「榛名のそういうとこ、本当に嫌い」
呆れたような溜息のあとに続いたそれに、行人は視線を落とした。
「……ごめん」
「謝んないでよ、八つ当たりに決まってるじゃん。なんなの、本当、もうやだ」
語尾の震えに気づき、はっとして再び顔を上げる。机に肘をついて手のひらに顔をうずめている四谷の表情はわからなかった。うつむいたまま、四谷がぐしゃりと前髪を乱す。
「自分がみっともない」
いったいなにがみっともないのかも、行人にはわからなかった。だから、打ち明けてくれることを期待して待つ。けれど、続いたのは予想もしていなかった台詞だった。
「俺、知ってたんだよ、榛名たちの部屋に勝手に入ったやつ」
「え……」
「半年以上前の話だけど、覚えてるよね。大変だったもんね」
大変。たしかに、大変ではあった。でも、忘れていたとは言わないけれど、行人にとってあの出来事はもう随分昔の話になっていた。だから。
「えっと、……でも、べつに、四谷がやったわけじゃないだろ?」
そこまで思いつめた顔で告白される意味がわからず、問い返す。その行人を見て、四谷は信じられないという顔をした。
「なんで?」
「なんでって言われても。誰が部屋に入ったのかは知らないけど、計画したのは水城だろうって知ってるし」
その事実を水木から匂わされたときは、うっかり掴みかかってしまったけれど。今となっては、できる限り関わらないようにしようと決めているというだけだ。
「なんで謝るの? 俺が保健室に通い慣れてたから?」
「……それもあるけど」
自嘲と棘の混じった返しに気まずさを抱きながらも、行人は認めた。間違いなく四谷は怒るとわかっていたけれど、それでも、どうしてもひとりに追い込んでしまったように見えたのだ。
行人の頭にある四谷のイメージが、友人に囲まれたものであったせいもあると思う。でも、それだけではなくて。
「その、四谷はきついことも言うし、腹の立つことも言うけど、でも、ぜんぶ自分で言葉にするだろ。少なくとも、俺は、四谷に陰湿ないじめみたいなのをされた覚えはなくて」
「……」
「だから、今回、はっきりとした理由を言ってくれなかったのは、言えない事情があったんじゃないかと思って。でも、その事情が俺にはぜんぜんわからなくて、だから、ごめん」
たとえば、自分がもっと、成瀬や茅野とまでは言わなくても、高藤や荻原くらい人間ができていたら。そうでなくても、岡たちのように四谷にもっと信頼してもらえている人間だったら。言われなくてもわかったかもしれないし、もっとうまくできたかもしれないし、四谷も打ち明けてくれたかもしれない。
でも、今の自分ではそんなふうには到底できない。できることがあるとすれば、自分の思いを変に隠さず伝えることだけだ。できれば、四谷に間違わず届いてほしいとは思うけれど。
「榛名のそういうとこ、本当に嫌い」
呆れたような溜息のあとに続いたそれに、行人は視線を落とした。
「……ごめん」
「謝んないでよ、八つ当たりに決まってるじゃん。なんなの、本当、もうやだ」
語尾の震えに気づき、はっとして再び顔を上げる。机に肘をついて手のひらに顔をうずめている四谷の表情はわからなかった。うつむいたまま、四谷がぐしゃりと前髪を乱す。
「自分がみっともない」
いったいなにがみっともないのかも、行人にはわからなかった。だから、打ち明けてくれることを期待して待つ。けれど、続いたのは予想もしていなかった台詞だった。
「俺、知ってたんだよ、榛名たちの部屋に勝手に入ったやつ」
「え……」
「半年以上前の話だけど、覚えてるよね。大変だったもんね」
大変。たしかに、大変ではあった。でも、忘れていたとは言わないけれど、行人にとってあの出来事はもう随分昔の話になっていた。だから。
「えっと、……でも、べつに、四谷がやったわけじゃないだろ?」
そこまで思いつめた顔で告白される意味がわからず、問い返す。その行人を見て、四谷は信じられないという顔をした。
「なんで?」
「なんでって言われても。誰が部屋に入ったのかは知らないけど、計画したのは水城だろうって知ってるし」
その事実を水木から匂わされたときは、うっかり掴みかかってしまったけれど。今となっては、できる限り関わらないようにしようと決めているというだけだ。
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