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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅣ 6 ②
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「べつに、本当に、俺は気にしてないから」
強く言わないようにしようと思っていたのに、きつい声になってしまった。驚いた瞳に変わったものの、すぐに労わる調子に変わる。慰めるように「庇わなくてもいいのに」と言う。でも、それは、そのほうが都合がいいからだと思った。
どうにか丸くおさめようとしていたはずの気持ちも吹き飛んで、行人はもう一度はっきりと言葉にした。
「庇ってるとかそういうことでもないし、そもそも、第三者がどうのこうの言う話じゃないだろ」
そんな、いじめてもいい、みたいな。自分たちは正義の側で、向こうだけが悪い、みたいな。そういった空気が、似非臭い善意が、なんだかめちゃくちゃ腹が立った。
かつて、自分が受けていたものだったせいもあったかもしれない。
「俺のこと心配してくれてるんだったら、それはありがたいとは思うけど、でも、俺のためじゃない」
呆気にとられた顔の面々を見つめ、行人は立ち上がった。また無駄に感情的になって、と。高藤にバレたら言われるだろうなとわかっていたし、所詮、自分だ。変えるべきところは変えようと思うし、これからのためにがんばろうとも本当に思っているけれど、でも、間違っていると思うことを言わないことは、やっぱり違うと思った。
収まらない感情を持て余したまま、出入り口に向かう。うしろで「なに、あれ」と困惑し切った声が聞こえたが、聞かなかったことにして。
「あ……」
教室のドアを開け、すぐそばの角を曲がった瞬間。ぶつかりそうになった相手を見とめ、行人は息を呑んだ。
「四谷。……え、っと」
自分を見ても逃げはしなかったものの、四谷はものすごく気まずそうに視線を逸らしている。自分の声は、たぶんそれなりに大きかったはずで。それで、ここに立ち止まっていたということは、たぶんではあるけれど、ドア付近にいたところを急いで移動したのではないかなぁ、という予測が立つわけで。恐る恐る問いかける。
「もしかして聞いてた?」
誤魔化すことを諦めたそれに、四谷はうつむいたまま、けれど、たしかに頷いた。だよな、と唇を結ぶ。
聞こえていないわけはないと思ったし、無反応を貫かれるよりは良かったのだろうとも思う。ただ、このあとになにをどう言えばいいのかの答えは出なかった。
黙ったままでいると、四谷はくるりと背を向けた。そのまま教室とは反対の方向に歩いていく。
「四谷」
行人は、反射でそのあとを追った。ちらりとも視線を寄こされることはなかったけれど、四谷は「来るな」とは言わなかった。追い払うように足が速くなることもない。無言の背中を許可と捉え、追いかける。
人の少ない廊下にチャイムの音が響く。またサボってしまったな、とほんの少し思ったものの、今から教室に戻ろうという気は起きなかった。
――前も、四谷のことでサボったんだっけ。
自分の成績が良いと思ったことはないから、行人は真面目に授業を受けるようにしている。落ちこぼれにならないようにこれでも毎日必死なのだ。
でも、そういった自分のことよりも、大事にしたいこともあるのだと知って。今に限って言えば、それは四谷だった。迷いなく歩いていた四谷の足が保健室の前で止まる。予想していなかった場所に、行人は思わず「え」と小さな声をもらした。行人のほうを見ることなく、四谷が呟く。
「べつに調子悪いとかじゃないから」
「え……っと、なら、なんで」
「教室にいるのが嫌だったから、休ませてもらってた。そのくらいの融通はつけてくれる。……まぁ、家には連絡いってるんだろうけど、べつにいいよ。適当に弁解するし」
強く言わないようにしようと思っていたのに、きつい声になってしまった。驚いた瞳に変わったものの、すぐに労わる調子に変わる。慰めるように「庇わなくてもいいのに」と言う。でも、それは、そのほうが都合がいいからだと思った。
どうにか丸くおさめようとしていたはずの気持ちも吹き飛んで、行人はもう一度はっきりと言葉にした。
「庇ってるとかそういうことでもないし、そもそも、第三者がどうのこうの言う話じゃないだろ」
そんな、いじめてもいい、みたいな。自分たちは正義の側で、向こうだけが悪い、みたいな。そういった空気が、似非臭い善意が、なんだかめちゃくちゃ腹が立った。
かつて、自分が受けていたものだったせいもあったかもしれない。
「俺のこと心配してくれてるんだったら、それはありがたいとは思うけど、でも、俺のためじゃない」
呆気にとられた顔の面々を見つめ、行人は立ち上がった。また無駄に感情的になって、と。高藤にバレたら言われるだろうなとわかっていたし、所詮、自分だ。変えるべきところは変えようと思うし、これからのためにがんばろうとも本当に思っているけれど、でも、間違っていると思うことを言わないことは、やっぱり違うと思った。
収まらない感情を持て余したまま、出入り口に向かう。うしろで「なに、あれ」と困惑し切った声が聞こえたが、聞かなかったことにして。
「あ……」
教室のドアを開け、すぐそばの角を曲がった瞬間。ぶつかりそうになった相手を見とめ、行人は息を呑んだ。
「四谷。……え、っと」
自分を見ても逃げはしなかったものの、四谷はものすごく気まずそうに視線を逸らしている。自分の声は、たぶんそれなりに大きかったはずで。それで、ここに立ち止まっていたということは、たぶんではあるけれど、ドア付近にいたところを急いで移動したのではないかなぁ、という予測が立つわけで。恐る恐る問いかける。
「もしかして聞いてた?」
誤魔化すことを諦めたそれに、四谷はうつむいたまま、けれど、たしかに頷いた。だよな、と唇を結ぶ。
聞こえていないわけはないと思ったし、無反応を貫かれるよりは良かったのだろうとも思う。ただ、このあとになにをどう言えばいいのかの答えは出なかった。
黙ったままでいると、四谷はくるりと背を向けた。そのまま教室とは反対の方向に歩いていく。
「四谷」
行人は、反射でそのあとを追った。ちらりとも視線を寄こされることはなかったけれど、四谷は「来るな」とは言わなかった。追い払うように足が速くなることもない。無言の背中を許可と捉え、追いかける。
人の少ない廊下にチャイムの音が響く。またサボってしまったな、とほんの少し思ったものの、今から教室に戻ろうという気は起きなかった。
――前も、四谷のことでサボったんだっけ。
自分の成績が良いと思ったことはないから、行人は真面目に授業を受けるようにしている。落ちこぼれにならないようにこれでも毎日必死なのだ。
でも、そういった自分のことよりも、大事にしたいこともあるのだと知って。今に限って言えば、それは四谷だった。迷いなく歩いていた四谷の足が保健室の前で止まる。予想していなかった場所に、行人は思わず「え」と小さな声をもらした。行人のほうを見ることなく、四谷が呟く。
「べつに調子悪いとかじゃないから」
「え……っと、なら、なんで」
「教室にいるのが嫌だったから、休ませてもらってた。そのくらいの融通はつけてくれる。……まぁ、家には連絡いってるんだろうけど、べつにいいよ。適当に弁解するし」
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