461 / 484
第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅣ 6 ①
しおりを挟む
[6]
寮の食堂では姿を見かけなかったものの、さすがに教室には来ると思っていたのだが、求めていた姿が見当たらない。時刻は、一限目が始まるまであと十分ほどというところだ。
……やっぱり、寮出る前に声かけたほうがよかったかな。
いや、でも、プライベートな空間まで押しかけられたくはなかったかもしれないし。まぁ、一度、やらかしてはいるのだけれど。
そんなふうに悩んでいるうちに、教室の出入り口のほうばかりをちらちらと見てしまっていたらしい。いつのまにか近くに来ていた岡に「四谷?」と尋ねられ、はっとして行人は頷いた。
「あ、うん」
「大丈夫。もし、今日もなんか言われたら、俺が間に入るし」
その、ちょっと遅いなと思って、と続けようとした台詞に被さった内容に、軽く眉を寄せる。意味がわからなかったわけではないが、あまり理解したくなかったからだ。
「高藤にも頼まれたし。だから、そんなに気にしなくても……」
「え?」
今度は、はっきりと怪訝な声が出た。高藤に頼まれたとは、いったいなにが。どのタイミングで。
……そういや、昨日、なんか、夜ちょっと出てたな、あいつ。
とくに気にしてもいなかったのだが、もしやそのときにそんな話をしていたのだろうか。
「いや、……っていうか、その、べつに間に入ってほしいとか、なくて」
高藤に対してムッとしそうになった感情を押し込めて、行人は取り繕った。昨日の夜、寮の部屋でした話を思い出す。せめて、自分がなんともないという顔をしていないと、事態はより悪いほうに流れてしまう気がした。
それに、そもそもではあるけれど、自分が教室で傷ついた顔をしなければ、ほかの人間に気を遣わせる事態になっていなかったはずで。
あのときの自分の反応を悔やみつつ、言葉を継いだ。大げさになりすぎたり、必要以上に攻撃的になったりしないよう、細心の注意を払う。
「ちゃんと来るのかなって気になっただけ。それに、べつに、俺は本当に気にしてないから」
「気にしてないって、昨日めちゃくちゃ落ち込んでたじゃん」
「いや……」
それは、まぁ、そうなのだけれど。でも、あの場ではできなかったけれど、自分の中である程度の落としどころは見つけることができたというか。どこからどう説明しようかと悩みつつ、口を開きかけた瞬間。違う声が割り込んできた。べつに、たいして親しくしているわけでもないクラスメイトだ。
「四谷の話? きついやつだけど、さすがに昨日のあれはなかったよな」
「え……、あ、いや、本当に」
「たしかに。聞いてて、僕もちょっとびっくりしたし、嫌だったもん」
今度は、またべつのクラスメイトの声。自分の机の周りに人が集まっている現実に、行人は戸惑った。中等部にいたころと比べたら、クラスメイトたちと話をするようになった。それは事実だ。でも、こんなふうに喋りかけられることなんてなかったはずだった。
――やだな、これ。
なんだか、すごく嫌な感じだ。悪口を言う権利を得たかのような、自分たちの諍いをだしにして楽しんでいるような空気。
寮の食堂では姿を見かけなかったものの、さすがに教室には来ると思っていたのだが、求めていた姿が見当たらない。時刻は、一限目が始まるまであと十分ほどというところだ。
……やっぱり、寮出る前に声かけたほうがよかったかな。
いや、でも、プライベートな空間まで押しかけられたくはなかったかもしれないし。まぁ、一度、やらかしてはいるのだけれど。
そんなふうに悩んでいるうちに、教室の出入り口のほうばかりをちらちらと見てしまっていたらしい。いつのまにか近くに来ていた岡に「四谷?」と尋ねられ、はっとして行人は頷いた。
「あ、うん」
「大丈夫。もし、今日もなんか言われたら、俺が間に入るし」
その、ちょっと遅いなと思って、と続けようとした台詞に被さった内容に、軽く眉を寄せる。意味がわからなかったわけではないが、あまり理解したくなかったからだ。
「高藤にも頼まれたし。だから、そんなに気にしなくても……」
「え?」
今度は、はっきりと怪訝な声が出た。高藤に頼まれたとは、いったいなにが。どのタイミングで。
……そういや、昨日、なんか、夜ちょっと出てたな、あいつ。
とくに気にしてもいなかったのだが、もしやそのときにそんな話をしていたのだろうか。
「いや、……っていうか、その、べつに間に入ってほしいとか、なくて」
高藤に対してムッとしそうになった感情を押し込めて、行人は取り繕った。昨日の夜、寮の部屋でした話を思い出す。せめて、自分がなんともないという顔をしていないと、事態はより悪いほうに流れてしまう気がした。
それに、そもそもではあるけれど、自分が教室で傷ついた顔をしなければ、ほかの人間に気を遣わせる事態になっていなかったはずで。
あのときの自分の反応を悔やみつつ、言葉を継いだ。大げさになりすぎたり、必要以上に攻撃的になったりしないよう、細心の注意を払う。
「ちゃんと来るのかなって気になっただけ。それに、べつに、俺は本当に気にしてないから」
「気にしてないって、昨日めちゃくちゃ落ち込んでたじゃん」
「いや……」
それは、まぁ、そうなのだけれど。でも、あの場ではできなかったけれど、自分の中である程度の落としどころは見つけることができたというか。どこからどう説明しようかと悩みつつ、口を開きかけた瞬間。違う声が割り込んできた。べつに、たいして親しくしているわけでもないクラスメイトだ。
「四谷の話? きついやつだけど、さすがに昨日のあれはなかったよな」
「え……、あ、いや、本当に」
「たしかに。聞いてて、僕もちょっとびっくりしたし、嫌だったもん」
今度は、またべつのクラスメイトの声。自分の机の周りに人が集まっている現実に、行人は戸惑った。中等部にいたころと比べたら、クラスメイトたちと話をするようになった。それは事実だ。でも、こんなふうに喋りかけられることなんてなかったはずだった。
――やだな、これ。
なんだか、すごく嫌な感じだ。悪口を言う権利を得たかのような、自分たちの諍いをだしにして楽しんでいるような空気。
10
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
サンタからの贈り物
未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。
※別小説のセルフリメイクです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる