パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅣ 6 ①

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[6]


 寮の食堂では姿を見かけなかったものの、さすがに教室には来ると思っていたのだが、求めていた姿が見当たらない。時刻は、一限目が始まるまであと十分ほどというところだ。

 ……やっぱり、寮出る前に声かけたほうがよかったかな。

 いや、でも、プライベートな空間まで押しかけられたくはなかったかもしれないし。まぁ、一度、やらかしてはいるのだけれど。
 そんなふうに悩んでいるうちに、教室の出入り口のほうばかりをちらちらと見てしまっていたらしい。いつのまにか近くに来ていた岡に「四谷?」と尋ねられ、はっとして行人は頷いた。

「あ、うん」
「大丈夫。もし、今日もなんか言われたら、俺が間に入るし」

 その、ちょっと遅いなと思って、と続けようとした台詞に被さった内容に、軽く眉を寄せる。意味がわからなかったわけではないが、あまり理解したくなかったからだ。

「高藤にも頼まれたし。だから、そんなに気にしなくても……」
「え?」

 今度は、はっきりと怪訝な声が出た。高藤に頼まれたとは、いったいなにが。どのタイミングで。

 ……そういや、昨日、なんか、夜ちょっと出てたな、あいつ。

 とくに気にしてもいなかったのだが、もしやそのときにそんな話をしていたのだろうか。

「いや、……っていうか、その、べつに間に入ってほしいとか、なくて」

 高藤に対してムッとしそうになった感情を押し込めて、行人は取り繕った。昨日の夜、寮の部屋でした話を思い出す。せめて、自分がなんともないという顔をしていないと、事態はより悪いほうに流れてしまう気がした。
 それに、そもそもではあるけれど、自分が教室で傷ついた顔をしなければ、ほかの人間に気を遣わせる事態になっていなかったはずで。
 あのときの自分の反応を悔やみつつ、言葉を継いだ。大げさになりすぎたり、必要以上に攻撃的になったりしないよう、細心の注意を払う。

「ちゃんと来るのかなって気になっただけ。それに、べつに、俺は本当に気にしてないから」
「気にしてないって、昨日めちゃくちゃ落ち込んでたじゃん」
「いや……」

 それは、まぁ、そうなのだけれど。でも、あの場ではできなかったけれど、自分の中である程度の落としどころは見つけることができたというか。どこからどう説明しようかと悩みつつ、口を開きかけた瞬間。違う声が割り込んできた。べつに、たいして親しくしているわけでもないクラスメイトだ。

「四谷の話? きついやつだけど、さすがに昨日のあれはなかったよな」
「え……、あ、いや、本当に」
「たしかに。聞いてて、僕もちょっとびっくりしたし、嫌だったもん」

 今度は、またべつのクラスメイトの声。自分の机の周りに人が集まっている現実に、行人は戸惑った。中等部にいたころと比べたら、クラスメイトたちと話をするようになった。それは事実だ。でも、こんなふうに喋りかけられることなんてなかったはずだった。

 ――やだな、これ。

 なんだか、すごく嫌な感じだ。悪口を言う権利を得たかのような、自分たちの諍いをだしにして楽しんでいるような空気。
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