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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅣ 2 ③
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その行人をじっと見つめていた成瀬が、ふっと柔らかな笑みを浮かべた。
「それとも、本当になにかあるなら、聞こうか」
「えっと……」
優しい表情を見ていたら、言う必要のないことまでぽろぽろとこぼしてしまいそうで、うつむく。
まだこの人が正しく生徒会長だったころ、距離を取られているのではないかと疑ったことがあった。もちろん、冷たく拒絶される、というようなことではなかったのだけれど、やんわりと「これが本来の先輩後輩の距離だよ」と諭されているような。
そうして、それは、高藤が会長になってからも続いていて。必要な引き継ぎが終わると、あっさりと顔を出さなくなった。その彼が、またこんなふうに尋ねてくれている。
きっと、自分が、それほどの態度を見せているのだ。駄目だな、と呆れた。本当になにも変わっていないし、心配させ続けている。
「……成瀬さんは」
「なに?」
「勉強ですか」
質問の答えとまったく関係のないことを問うた行人に、成瀬は苦笑したようだった。ぱら、とページを繰る音がする。
「まぁ、一応、受験生だしね。行人がどう思ってくれてるのかはわからないけど、俺はけっこう努力型だから」
予想外の返答に顔を上げると、ばちりと目が合った。その瞳がにこりとほほえむ。かつてずっと好きだったもの。
「天才型っていうのはね、あんまり認めたくないけど、篠原みたいなのを言うの。あいつ、本当に勉強してないのに、それなり以上にできるからね」
まぁ、でも、と変わらない穏やかな調子で成瀬は続ける。
「そういうとんでもないやつもたまにいるけど、基本的にはみんな勉強して、行きたいところを選ぼうとしてる。そういう時期だからね。茅野だって、向原だってそうだよ」
言われてみれば、それもあたりまえのことだった。ですよね、と小さな声で同意を示す。
「ごめん。行人の話だったのに、説教くさくなったな」
「あ、いえ……」
どう言ったらいいのかわからないまま、行人は首を振った。そうしてから、ぽつりと付け足す。たまに呆れたふうに高藤が言ってくることと本意は同じなのだろうなとわかったからだ。
「その、本当にそうですよねって思って。最初からなんでもできるわけじゃないですもんね」
「そう、そう。だから、皓太にも、頼りながらうまくやっていったらいいって言ってるんだけどね。あいつ、すぐ、自分でぜんぶやろうとするから」
そのほうが手っ取り早いって思っちゃうんだろうな、と言った苦笑まじりの言葉の格段のあたたかさに、自然と笑みが浮かぶ。
「ですよね」
「うん。だから、行人がうざいんじゃないかなって思うくらい、お節介焼いてあげて。たぶん、それでちょうどいいくらいだから」
「……はい」
「最近は、行人もだけど、荻原にも助けてもらってるみたいで。そこは本当にちょっとほっとしてるんだけど。行人はどう?」
「それとも、本当になにかあるなら、聞こうか」
「えっと……」
優しい表情を見ていたら、言う必要のないことまでぽろぽろとこぼしてしまいそうで、うつむく。
まだこの人が正しく生徒会長だったころ、距離を取られているのではないかと疑ったことがあった。もちろん、冷たく拒絶される、というようなことではなかったのだけれど、やんわりと「これが本来の先輩後輩の距離だよ」と諭されているような。
そうして、それは、高藤が会長になってからも続いていて。必要な引き継ぎが終わると、あっさりと顔を出さなくなった。その彼が、またこんなふうに尋ねてくれている。
きっと、自分が、それほどの態度を見せているのだ。駄目だな、と呆れた。本当になにも変わっていないし、心配させ続けている。
「……成瀬さんは」
「なに?」
「勉強ですか」
質問の答えとまったく関係のないことを問うた行人に、成瀬は苦笑したようだった。ぱら、とページを繰る音がする。
「まぁ、一応、受験生だしね。行人がどう思ってくれてるのかはわからないけど、俺はけっこう努力型だから」
予想外の返答に顔を上げると、ばちりと目が合った。その瞳がにこりとほほえむ。かつてずっと好きだったもの。
「天才型っていうのはね、あんまり認めたくないけど、篠原みたいなのを言うの。あいつ、本当に勉強してないのに、それなり以上にできるからね」
まぁ、でも、と変わらない穏やかな調子で成瀬は続ける。
「そういうとんでもないやつもたまにいるけど、基本的にはみんな勉強して、行きたいところを選ぼうとしてる。そういう時期だからね。茅野だって、向原だってそうだよ」
言われてみれば、それもあたりまえのことだった。ですよね、と小さな声で同意を示す。
「ごめん。行人の話だったのに、説教くさくなったな」
「あ、いえ……」
どう言ったらいいのかわからないまま、行人は首を振った。そうしてから、ぽつりと付け足す。たまに呆れたふうに高藤が言ってくることと本意は同じなのだろうなとわかったからだ。
「その、本当にそうですよねって思って。最初からなんでもできるわけじゃないですもんね」
「そう、そう。だから、皓太にも、頼りながらうまくやっていったらいいって言ってるんだけどね。あいつ、すぐ、自分でぜんぶやろうとするから」
そのほうが手っ取り早いって思っちゃうんだろうな、と言った苦笑まじりの言葉の格段のあたたかさに、自然と笑みが浮かぶ。
「ですよね」
「うん。だから、行人がうざいんじゃないかなって思うくらい、お節介焼いてあげて。たぶん、それでちょうどいいくらいだから」
「……はい」
「最近は、行人もだけど、荻原にも助けてもらってるみたいで。そこは本当にちょっとほっとしてるんだけど。行人はどう?」
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