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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅣ 1 ②
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「じゃあな。また放課後」
「あ、……うん」
放課後、来るんだ、とは言わないまま、じゃあ、と出て行く背中を見送る。なんだか、ものすごく苛々としているような。所在なく溜息を吐いてから、皓太はやりとりのあいだじゅう一言も口を挟んでくれなかった薄情なクラスメイトに助けを求めた。
「なに、あれ」
「えぇ、なに、あれって言われても。ちょっと、高藤が冷たかったんじゃない?」
榛名ちゃんもかわいそうに、とあいかわらずの榛名贔屓のことを言われて、顔をしかめる。
寮生委員会に所属している荻原だが、たまにこうして様子見がてら、手伝ってくれていて、正直なところ大変助かっているのだが、それはそれだ。
「じゃあ、なに。クラスにいづらいの? もしかしていじめられてる? とか聞けばよかったわけ、俺が」
「いやぁ。それはそれで火に油だったと思うけど」
「やっぱり」
そうなるだけじゃん、と投げやりに手にしていたペンを回す。そもそも「いじめられている」わけではないことは知っていた。
あれは、どちらかと言わなくても、榛名がひとりでぐるぐると気にして、声をかけることができなくなっているだけなのだ。
「いや、だから、言い方っていうものがね。あると思うんだよね、俺。まぁ、俺も失敗続きだから、あんまり強く言えないんだけど」
「……」
「でも、岡もけっこう榛名ちゃんのこと気にしてたからなぁ。よっちゃんも謝りたそうにしてるんだけど、榛名ちゃんがすごい勢いで逃げるんだってさ。どうしたらいいって相談されたんだけど。どうしたらいいんだろうねぇ」
榛名ちゃんの取り扱いは高藤の担当じゃないの、と言われても、それで正解をすぐに叩き出すことができていたら、こんな苦労はしていない。
「あ、でも、高藤も、気遣うの上手そうで案外下手だよね。とくに榛名ちゃんに対して。気を遣おうとして、いや、やっぱやめようって思い留まって、結果、ものすごく中途半端な悪手になってるって感じ」
「……放っておいてくれる?」
「べつに聞かれなかったら放っておくけど。……あ、榛名ちゃんがかわいそうじゃない範囲ならね。でも、そっか。なんでもできる高藤みたいな人間でも、そうなるんだから、本気って怖いよね」
放っておいてくれる、ともう一度言うことはできず、曖昧な笑みで切り返す。「ものすごく中途半端な悪手」という評価については言い得て妙だなと思ってしまったものの、「本気」というほうは頷きづらかったからだ。
――まぁ、でも、「そういうふう」を選んだのは、俺だしなぁ。
ここを卒業するまでのあいだ、形式上はつがいでいるということ。その選択をしたのは、そのほうが榛名にとっていいだろうと思ったからで、今もそう思っている。
余計な世話であろうとも、自分にとって不利益はなにもなかったし、本当にかまわなかったのだ。好きな相手がいるというのなら話は別だっただろうけれど、自分にはそういう相手はいなかったので。むしろ、告白をされてお断りをするという精神的な苦行が減ってありがたいくらいに思っていたのだが。
「あ、……うん」
放課後、来るんだ、とは言わないまま、じゃあ、と出て行く背中を見送る。なんだか、ものすごく苛々としているような。所在なく溜息を吐いてから、皓太はやりとりのあいだじゅう一言も口を挟んでくれなかった薄情なクラスメイトに助けを求めた。
「なに、あれ」
「えぇ、なに、あれって言われても。ちょっと、高藤が冷たかったんじゃない?」
榛名ちゃんもかわいそうに、とあいかわらずの榛名贔屓のことを言われて、顔をしかめる。
寮生委員会に所属している荻原だが、たまにこうして様子見がてら、手伝ってくれていて、正直なところ大変助かっているのだが、それはそれだ。
「じゃあ、なに。クラスにいづらいの? もしかしていじめられてる? とか聞けばよかったわけ、俺が」
「いやぁ。それはそれで火に油だったと思うけど」
「やっぱり」
そうなるだけじゃん、と投げやりに手にしていたペンを回す。そもそも「いじめられている」わけではないことは知っていた。
あれは、どちらかと言わなくても、榛名がひとりでぐるぐると気にして、声をかけることができなくなっているだけなのだ。
「いや、だから、言い方っていうものがね。あると思うんだよね、俺。まぁ、俺も失敗続きだから、あんまり強く言えないんだけど」
「……」
「でも、岡もけっこう榛名ちゃんのこと気にしてたからなぁ。よっちゃんも謝りたそうにしてるんだけど、榛名ちゃんがすごい勢いで逃げるんだってさ。どうしたらいいって相談されたんだけど。どうしたらいいんだろうねぇ」
榛名ちゃんの取り扱いは高藤の担当じゃないの、と言われても、それで正解をすぐに叩き出すことができていたら、こんな苦労はしていない。
「あ、でも、高藤も、気遣うの上手そうで案外下手だよね。とくに榛名ちゃんに対して。気を遣おうとして、いや、やっぱやめようって思い留まって、結果、ものすごく中途半端な悪手になってるって感じ」
「……放っておいてくれる?」
「べつに聞かれなかったら放っておくけど。……あ、榛名ちゃんがかわいそうじゃない範囲ならね。でも、そっか。なんでもできる高藤みたいな人間でも、そうなるんだから、本気って怖いよね」
放っておいてくれる、ともう一度言うことはできず、曖昧な笑みで切り返す。「ものすごく中途半端な悪手」という評価については言い得て妙だなと思ってしまったものの、「本気」というほうは頷きづらかったからだ。
――まぁ、でも、「そういうふう」を選んだのは、俺だしなぁ。
ここを卒業するまでのあいだ、形式上はつがいでいるということ。その選択をしたのは、そのほうが榛名にとっていいだろうと思ったからで、今もそう思っている。
余計な世話であろうとも、自分にとって不利益はなにもなかったし、本当にかまわなかったのだ。好きな相手がいるというのなら話は別だっただろうけれど、自分にはそういう相手はいなかったので。むしろ、告白をされてお断りをするという精神的な苦行が減ってありがたいくらいに思っていたのだが。
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