パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・ゼロⅤ ④

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「よかった」

 ようやく返ってきたまともな反応に、ほっと破顔する。

「そうだよね、でも、よかった。僕たち、仲良しだもんね。だからね、四谷くん。これからも、櫻寮のみんなのこと、いっぱいいっぱい僕に教えてね」

 僕、四谷くんのお話聞くの、大好きなんだぁ。硬い表情の相手ににこにこと感謝を伝えて、最後にひとつこそりと水城は耳打ちをした。
 内緒話を好み、秘密を共有することを無邪気に楽しむ、幼い子どものように。

「秘密の友達って、なんだかすごくわくわくするね」

 恋愛って、笑える。好きな人に好かれたい。嫌われたくない。好きな人に好かれているあの子が憎い。
 そんな感情で、簡単に暴走してくれる。わかりやすい弱みをたくさんたくさん落としてくれる。
 好きになってほしい、なんて。他者に決定権を委ねる格下の存在に成り下がった時点で。負け犬になるに決まっているのに。
 弱者は、そんなことにも気づかない。
 好きにならせて、支配権を握らないことには、なにも意味はないのに。自分がそうやって生きてきたことが、この道が正しいというなによりの証明だ。
 紙のような白い顔を見つめて、水城はもう一度にこりとほほえんだ。



 **



 教室に、ひとりでいることが怖くなった。

 話し声が響く昼休み。自分の席で午前の授業で出た課題をやりながら、行人はそっと溜息を呑み込んだ。
 ちらと動きそうになる視線をノートに固定して、文字を見つめる。働かない思考を持て余したまま、べつに、と自身に言い聞かせるように行人は思う。
 そう。べつに、教室にひとりでいることは、なにも珍しことではなかった。中等部にいたころは、高藤に「もう少しでいいから交流をしろ」と口を酸っぱくして言われる程度にはひとりを貫いていたし、高等部に上がっても、そのスタンスを貫いていた。
 そのほうが楽だったからだ。余計な気を張らなくて済むし、ひとりでいることに抵抗もない。クラスメイトと仲良くしたいとも思わない。まぁ、べつに、喧嘩をしたいわけでもないけれど。
 そんなふうだった日常が少しずつ変わって、ただのクラスメイトよりも親しいと思うことのできる相手ができた。
 なんとなく一緒にいることが自然に感じるようになって、もちろん、気を使うことはあるけれど、あれ、案外、誰かといることも悪くないな、なんて勝手なことを思うようになって。でも――。

 ……だから、なんだろうな。

 一度、そんな感情を知ってしまったから、ひとりだったらどうすればいいのかわからなくなった。みっともない話だと思う。

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