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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 16 ③
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まだまだ足りていない部分もあると知っている。でも、自分たちは自分たちらしく少しずつ進んで行けばいい。
なにもかもすべてを真似する必要もないし、逆になにもかもすべてを捨てる必要もない。
だから、俺も、俺の意志で、高藤をサポートする。成瀬さんに言われたから、とかじゃなくて、……友達として。
そういうことがしっかり伝わっていてほしいし、よく見ていて、大切にしている、というふうに、思ってもらうことができたらいい。
そう、思った。
**
「書いてみないって言ったのは俺だけど、いやぁ……」
「いやぁ、なんだよ?」
まさか本当に書いてくるとは思っていなかった、とでも言いたいのだろうか。行人の渡した用紙に目を通した荻原は、あまり見たことのな類の、なんとも言い難い苦笑いを浮かべている。
「いや、……その、うん。書いてくれてありがとうね、榛名ちゃん。すごく参考になった」
「思ってないだろ、絶対」
「思ってる、思ってる。でも、そうだな。俺ひとりしか読まないのは申し訳ない出来だから、原本、高藤にあげていい?」
「やめろ」
「泣いて喜ぶと思うんだけど」
「絶対、やめろ」
冗談抜きで、それは絶対にやめてほしい。これだって人の多い談話室で見せるのは恥ずかしかったから、時間外の食堂に引っ張ってきたというのに。
猛然と否定した行人に、しげしげと改めて紙面に目を通しながら、「そうかなぁ」と荻原が言う。
「ちょっと、なんか、むず痒い感じはするけど、こう、熱烈に応援してる感じが伝わってきて、良い出来だと思うよ?」
「むず痒い」
「うん、まぁ」
「熱烈に応援してる」
「え、でも、してるでしょ?」
いや、それは、応援はしているけれど。なんだかどうにも居た堪れなくなって、行人は肩を落とした。
「こういうのって、夜中のテンションで書くものじゃないな……」
「あ、うん。それはそうだと思うよ。夜中に書いたラブレターとか、絶対地雷だもんね」
「ラブレター?」
「あ……、いや、うん。間違えた。応援演説だったね。ごめん」
本当に間違ったのだろうか。疑念を覚えたが、行人は問い質すことはしなかった。うん、と曖昧に相槌を打つ。
「とにかく、ありがとうね。榛名ちゃん。応援演説の参考にさせてもらうよ」
荻原もそれ以上のことは突っ込まないことにしたらしい。笑顔のまま用紙を折りたたむ。受け取ってもらえたことにほっとして、行人はもう一度、うん、と頷いた。
にこ、と人当たり良く応じた荻原が、そういえばさ、と再び口火を切った。
「榛名ちゃん、よっちゃん、どう?」
「え……、あ」
「榛名ちゃんも知ってると思うけどさ、高藤にもツンツンだったんでしょ? 俺には無理って匙投げられちゃって」
今まで散々優しくされてたのに、ひどいよねぇ、と続いたそれに、行人はどうにか頷いた。
なんだか、ちょっと、据わりが悪い。忘れていたわけではない。荻原に、「気にかけてあげてね」と言われたことも覚えていたつもりだし、高藤にらしくない態度を取ったときも、大丈夫かなとは思った。
今、談話室の作業に四谷が顔を出さないことも不思議に思ってはいる。けれど、生徒会が忙しい、だとか、高藤のこともあって自分が口出しにくい、とか、いろいろな理由を盾に、思う以上のことをなにひとつ自分はしていなかった。
「えっと……、その」
罪悪感を薄めるように、行人は取り繕ことのできる言葉を探した。
「そのときも、岡が追いかけてくれてたし、俺だと、その、変に刺激するかなと思って様子見てたんだけど」
「あぁ、岡ね」
得心したふうに荻原が相槌を打つ。
「まぁ、あのふたりも中等部のころからずっと仲良いけどさ。よっちゃん、結局はっきりとしたことは言わなかったらしいよ」
「あ、……そうなんだ」
「あんまり問い詰めるのもって言ってたし、俺もそれはそうだと思ったんだけどさ」
なにもかもすべてを真似する必要もないし、逆になにもかもすべてを捨てる必要もない。
だから、俺も、俺の意志で、高藤をサポートする。成瀬さんに言われたから、とかじゃなくて、……友達として。
そういうことがしっかり伝わっていてほしいし、よく見ていて、大切にしている、というふうに、思ってもらうことができたらいい。
そう、思った。
**
「書いてみないって言ったのは俺だけど、いやぁ……」
「いやぁ、なんだよ?」
まさか本当に書いてくるとは思っていなかった、とでも言いたいのだろうか。行人の渡した用紙に目を通した荻原は、あまり見たことのな類の、なんとも言い難い苦笑いを浮かべている。
「いや、……その、うん。書いてくれてありがとうね、榛名ちゃん。すごく参考になった」
「思ってないだろ、絶対」
「思ってる、思ってる。でも、そうだな。俺ひとりしか読まないのは申し訳ない出来だから、原本、高藤にあげていい?」
「やめろ」
「泣いて喜ぶと思うんだけど」
「絶対、やめろ」
冗談抜きで、それは絶対にやめてほしい。これだって人の多い談話室で見せるのは恥ずかしかったから、時間外の食堂に引っ張ってきたというのに。
猛然と否定した行人に、しげしげと改めて紙面に目を通しながら、「そうかなぁ」と荻原が言う。
「ちょっと、なんか、むず痒い感じはするけど、こう、熱烈に応援してる感じが伝わってきて、良い出来だと思うよ?」
「むず痒い」
「うん、まぁ」
「熱烈に応援してる」
「え、でも、してるでしょ?」
いや、それは、応援はしているけれど。なんだかどうにも居た堪れなくなって、行人は肩を落とした。
「こういうのって、夜中のテンションで書くものじゃないな……」
「あ、うん。それはそうだと思うよ。夜中に書いたラブレターとか、絶対地雷だもんね」
「ラブレター?」
「あ……、いや、うん。間違えた。応援演説だったね。ごめん」
本当に間違ったのだろうか。疑念を覚えたが、行人は問い質すことはしなかった。うん、と曖昧に相槌を打つ。
「とにかく、ありがとうね。榛名ちゃん。応援演説の参考にさせてもらうよ」
荻原もそれ以上のことは突っ込まないことにしたらしい。笑顔のまま用紙を折りたたむ。受け取ってもらえたことにほっとして、行人はもう一度、うん、と頷いた。
にこ、と人当たり良く応じた荻原が、そういえばさ、と再び口火を切った。
「榛名ちゃん、よっちゃん、どう?」
「え……、あ」
「榛名ちゃんも知ってると思うけどさ、高藤にもツンツンだったんでしょ? 俺には無理って匙投げられちゃって」
今まで散々優しくされてたのに、ひどいよねぇ、と続いたそれに、行人はどうにか頷いた。
なんだか、ちょっと、据わりが悪い。忘れていたわけではない。荻原に、「気にかけてあげてね」と言われたことも覚えていたつもりだし、高藤にらしくない態度を取ったときも、大丈夫かなとは思った。
今、談話室の作業に四谷が顔を出さないことも不思議に思ってはいる。けれど、生徒会が忙しい、だとか、高藤のこともあって自分が口出しにくい、とか、いろいろな理由を盾に、思う以上のことをなにひとつ自分はしていなかった。
「えっと……、その」
罪悪感を薄めるように、行人は取り繕ことのできる言葉を探した。
「そのときも、岡が追いかけてくれてたし、俺だと、その、変に刺激するかなと思って様子見てたんだけど」
「あぁ、岡ね」
得心したふうに荻原が相槌を打つ。
「まぁ、あのふたりも中等部のころからずっと仲良いけどさ。よっちゃん、結局はっきりとしたことは言わなかったらしいよ」
「あ、……そうなんだ」
「あんまり問い詰めるのもって言ってたし、俺もそれはそうだと思ったんだけどさ」
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