パーフェクトワールド

木原あざみ

文字の大きさ
上 下
411 / 484
第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 16 ③

しおりを挟む
 まだまだ足りていない部分もあると知っている。でも、自分たちは自分たちらしく少しずつ進んで行けばいい。
 なにもかもすべてを真似する必要もないし、逆になにもかもすべてを捨てる必要もない。
 だから、俺も、俺の意志で、高藤をサポートする。成瀬さんに言われたから、とかじゃなくて、……友達として。
 そういうことがしっかり伝わっていてほしいし、よく見ていて、大切にしている、というふうに、思ってもらうことができたらいい。
 そう、思った。


**


「書いてみないって言ったのは俺だけど、いやぁ……」
「いやぁ、なんだよ?」

 まさか本当に書いてくるとは思っていなかった、とでも言いたいのだろうか。行人の渡した用紙に目を通した荻原は、あまり見たことのな類の、なんとも言い難い苦笑いを浮かべている。

「いや、……その、うん。書いてくれてありがとうね、榛名ちゃん。すごく参考になった」
「思ってないだろ、絶対」
「思ってる、思ってる。でも、そうだな。俺ひとりしか読まないのは申し訳ない出来だから、原本、高藤にあげていい?」
「やめろ」
「泣いて喜ぶと思うんだけど」
「絶対、やめろ」

 冗談抜きで、それは絶対にやめてほしい。これだって人の多い談話室で見せるのは恥ずかしかったから、時間外の食堂に引っ張ってきたというのに。
 猛然と否定した行人に、しげしげと改めて紙面に目を通しながら、「そうかなぁ」と荻原が言う。

「ちょっと、なんか、むず痒い感じはするけど、こう、熱烈に応援してる感じが伝わってきて、良い出来だと思うよ?」
「むず痒い」
「うん、まぁ」
「熱烈に応援してる」
「え、でも、してるでしょ?」

 いや、それは、応援はしているけれど。なんだかどうにも居た堪れなくなって、行人は肩を落とした。

「こういうのって、夜中のテンションで書くものじゃないな……」
「あ、うん。それはそうだと思うよ。夜中に書いたラブレターとか、絶対地雷だもんね」
「ラブレター?」
「あ……、いや、うん。間違えた。応援演説だったね。ごめん」

 本当に間違ったのだろうか。疑念を覚えたが、行人は問い質すことはしなかった。うん、と曖昧に相槌を打つ。

「とにかく、ありがとうね。榛名ちゃん。応援演説の参考にさせてもらうよ」

 荻原もそれ以上のことは突っ込まないことにしたらしい。笑顔のまま用紙を折りたたむ。受け取ってもらえたことにほっとして、行人はもう一度、うん、と頷いた。
 にこ、と人当たり良く応じた荻原が、そういえばさ、と再び口火を切った。

「榛名ちゃん、よっちゃん、どう?」
「え……、あ」
「榛名ちゃんも知ってると思うけどさ、高藤にもツンツンだったんでしょ? 俺には無理って匙投げられちゃって」

 今まで散々優しくされてたのに、ひどいよねぇ、と続いたそれに、行人はどうにか頷いた。
 なんだか、ちょっと、据わりが悪い。忘れていたわけではない。荻原に、「気にかけてあげてね」と言われたことも覚えていたつもりだし、高藤にらしくない態度を取ったときも、大丈夫かなとは思った。
 今、談話室の作業に四谷が顔を出さないことも不思議に思ってはいる。けれど、生徒会が忙しい、だとか、高藤のこともあって自分が口出しにくい、とか、いろいろな理由を盾に、思う以上のことをなにひとつ自分はしていなかった。

「えっと……、その」

 罪悪感を薄めるように、行人は取り繕ことのできる言葉を探した。

「そのときも、岡が追いかけてくれてたし、俺だと、その、変に刺激するかなと思って様子見てたんだけど」
「あぁ、岡ね」

 得心したふうに荻原が相槌を打つ。

「まぁ、あのふたりも中等部のころからずっと仲良いけどさ。よっちゃん、結局はっきりとしたことは言わなかったらしいよ」
「あ、……そうなんだ」
「あんまり問い詰めるのもって言ってたし、俺もそれはそうだと思ったんだけどさ」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

別に、好きじゃなかった。

15
BL
好きな人が出来た。 そう先程まで恋人だった男に告げられる。 でも、でもさ。 notハピエン 短い話です。 ※pixiv様から転載してます。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

主人公は俺狙い?!

suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。 容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。 だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。 朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。 15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。 学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。 彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。 そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、 面倒事、それもBL(多分)とか無理!! そう考え近づかないようにしていた。 そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。 ハプニングだらけの学園生活! BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息 ※文章うるさいです ※背後注意

Ωの不幸は蜜の味

grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。 Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。 そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。 何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。 6千文字程度のショートショート。 思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

処理中です...