パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 14 ③

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 目立っている生徒や、同じクラスになったことのある生徒、中等部の時に同じ寮だった生徒は、さすがに顔と名前は一致させているので、そのはずだ。

 ――いや、べつに、水城が誰と喋っててもいいんだけど、なんか、珍しいな。

 そんな目立たないようなタイプの生徒とふたりでつるんでいるのは。
 いや、でも、それにしても誰だっけ。気になってじっと見下ろしていると、ぽんと肩を叩かれて、行人はびくっと肩を跳ねさせた。

「か、茅野さん……」

 なんで、この人、もうちょっとでいいから、ふつうに現れてくれないんだろう。
 バクバクと鳴る心臓を押さえつつ、呼びかける。

「なんで、おまえは毎回そう過剰に驚くんだ。さすがに俺も多少は申し訳なくなるんだが」
「いや、その……、ぜんぜん気づかなかったので」

 言葉のとおり若干申し訳ない顔をされてしまって、すみません、と行人は謝った。
 もうちょっとふつうに現れてほしいとは心底思っているが、それはそれである。

「あの、なにか?」
「なにというほどではないんだが、急ぎじゃなかったのか、それ。たまたまさっき会ったんだが、篠原が遅いと言っていたが」
「え、……あ」
「印刷、頼まれてたんだろう?」

 その言葉に、そうでした、と慌てて頷く。窓の外の様子が気になって、すっかり頭から抜け落ちてしまっていた。

「なら、さっさと済ませて生徒会室に戻るか」
「え?」
「せっかくだからな、手伝おう。荷物も増えるだろう」
「えっと、でも……」
「気にするな」

 それに、手分けしてやったほうが楽だろう、とさらりと請け負って、茅野が歩き出す。当初の目的地だった印刷室のほうに向かっているとわかって、行人もそのあとを追う。

「あの、すみません。ありがとうございます」

 生徒会室に顔を出したタイミングで、人出がなかったらしく篠岡に頼まれたのだが、印刷室を使うことに慣れていないので、茅野の申し出は正直なところ、ありがたかったのだ。

「いいと言っただろう。それで? なにを見てたんだ、おまえは」
「あ、いや、水城が」
「水城? なんだ、またひとりでふらふらとしてるのか、あいつは」
「いえ、誰かと、たぶん同級生と一緒だったみたいなんですけど、顔は見えたんですけど、名前がわからなくて、それで、誰だったっけって気になっちゃって」
「榛名」

 そこではじめて茅野の声に呆れた色が乗った。

「おまえ、さすがに同級生の顔と名前くらい一致させたらどうなんだ。顔はわかったということは、編入組でもないんだろう」
「いや、……ですね」

 自分でも思っていたことだったので、苦笑いにしかならない。学年が違っても、茅野であれば、しっかり名前を言い当てる気がするので、なおさらだ。
 人徳の違いって、こういうところに出るのかもな、と内心で思っていると、まぁ、と茅野が調子を和らげる。

「最近は、寮の中で仲良くやってるみたいで、寮長としては安心してるんだけどな」
「あ、……すみません、うるさかったですか」

 茅野の言うとおりで、最近は、夜に――もちろん消灯前の時間ではあるけれど、談話室で過ごすことが多かった。名目は選挙の準備であるものの、そこから脱線して雑談で盛り上がることもあった。
 もしかして、一番上の階まで聞こえていたのだろうか。

「安心したと言っているのに、なんで謝るんだ。寮則の範囲で楽しく過ごしているなら、なによりだ。荻原から報告も受けているしな」
「あ、……そうなんですね」
「あいつは、そういうところが本当にきっちりしているから。安心して任せられる。おまえたちが楽しそうにしていると、成瀬も安心するみたいだしな」
「成瀬さんが?」

 それ以上話を広げるつもりもなかったのか、ああ、と短く頷いたところで茅野は口を閉ざした。
 会話が途切れて、行人もなんとなくそのまま前を向く。気の利いた会話を振るなど、自分には到底できない芸当である。
 角を曲がると、もうすぐに印刷室だ。後輩として、せめて先にドアを開けて電気くらいはつけよう。そう思い至って、足を速める。
 ドアを開け、電気のスイッチを押したところで、行人はびくと身体を強張らせた。
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