パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 12 ③

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「じゃなくて。その、さっき、高藤が言ってたとおりで、大人しいから」
「あぁ、そっち」
「そう、そっち。それで、なんか変な噂も聞いたから」
「あぁ、まぁ、あるはあるみたいだね」

 知ってはいるけど、興味はないとばかりの反応だったが、めげずに行人は続けた。そういえば、前にも似たような話を持ち出したときも、「変なところでお人好しだよね」というありがたくもない評価をもらっただけだったかもしれない。

「それで、ちょっと気になったから、成瀬さんに話してみたんだけど。その噂が本当なら、生徒会として、風紀と寮生委員会と調整はするけど、高藤は水城とクラスも一緒なんだし、まずそっちに聞いてみたらって」
「なるほど」

 いったい自分はどんな顔をしていたのか。話を聞いた高藤は、少しおかしそうに苦笑をこぼした。

「それで、そんな顔してるんだ。さっきも榛名もすごいまともって言ってたけど、まともな会長の意見だと思うよ? まともすぎてどうしたとはちょっと思ったけど」

 あの人、基本的に身内びいきだから、と言ってから、まぁ、でも、と言葉を続ける。

「俺でも同じこと言うかな。そもそもの大前提として、水城がなにも考えなしにそんな状態になるわけがないとは思ってるけど、まぁ、もし万が一目の前でなにかあったら助けるし、情報として共有するし精査もするけど、個人的な感情としての心配はないな」
「……でも」
「だから、べつに、榛名のこと突き放したとかではないと思うよ。大きく心配するようなことではないから、俺と話して感情のほうを落ち着かせたらいいって思ったんじゃない?」

 いや、違う。話の本意はそこじゃない。そう思ったものの、突き放されたのだろうかと不安に感じていた部分がないとは言えなかったので、行人は押し黙った。

「それに、成瀬さんが知らなかったわけがないと思うし」
「知らないって、水城の噂のことだよな」
「そう、そう。手を打つ気があるなら打ってるだろうし、打たないなら、そのほうがいいって判断したっていうだけだと思うよ。――どう? ちょっとは安心した?」
「安心っていうか」

 自分がしているのは、余計な心配でしかないのかという気分は増したけれど。

 ――まぁ、でも、同じクラスで毎日見てる高藤がこう言うんだから、本当に気にするレベルの話ではないのかもな。

 目に余るできごとになっていたら、さすがに無視はしないだろうし。そういう人間だと信用している。

「もうひとつ、聞いてみたらって言われてたことがあるんだけど」
「なに?」
「おまえが、選挙のことで悩んでるみたいだから、よかったら話聞いてやってって」

 なんか、悩んでる? なんて、聞いたところで、べつに、なにも、と誤魔化されてしまったら、それ以上をうまく突っ込んで聞き出すことができる自信は、はっきり言ってまったくない。
 そういったわけだったので、行人は恥も外聞も捨てて、虎の威を借りだ。年上の幼馴染みが判断した「悩んでるみたい」を勘違いと切り捨てはしないだろうと踏んだからだ。
 なんでも聞いてくれていいけどというふうだった余裕の表情が、どんどんと嫌そうになっていく。そうして、その顔のまま、ぼそりと高藤が呟いた。

「……本当、お節介なんだけど」
「お節介って、心配してくれてるんだろ」
「だから、それが余計だって言ってんの。そもそも、おまえに聞けって言ってる時点でお節介だろ。言いたかったら言いたいときに俺が言うよ」

 そんな強要されなくても、と続いた声音が本当にうんざりと響いたように思えて、ぐっと胸が重くなる。
 聞き方を間違えたかもしれないとも後悔したけれど、でも、それより――。

 ――つまり、俺は話す相手に選ばないってことだよな。
 
 そういうことだと思った。成瀬は、相談に慣れていないから下手だと思うけれど、気長に聞いてやってと言ってくれた。でも、実際は、その次元に立つことさえできていなかったのだろう。
 自分が相談相手として頼りないことは、よくよくわかっているけれど。

 そもそも、自分から気にかけようとすら思いたることすらできていなかったのだ。「選挙に呉宮先輩も出るみたいだけど、大丈夫?」と気を揉んでいたのは四谷で、自分は、さらりと確認しただけで、それ以上は気に留めなかった。今回も、成瀬に言われたから、気にしたというだけだ。
 だから、拗ねる資格なんて、ないはずなのに。
 勝手だな、と自分に呆れた。自分からはなにも提供していないのに、相手からばかりを求めるのだから。

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