パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 12 ①

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[12]

 ――まずは、高藤と話してみたら、か。

 寮に戻る道すがら、行人はそっと息を吐いた。成瀬の言っていることは、決して間違ってはいない。むしろ、すごく正しかった。だからこそ頷くほかなかった。でも。

 ――なんか、すごい会長っぽかったな。いや、成瀬さんは会長だけど。

 それを一線を引かれたと捉えてしまうのは、拡大解釈というやつなのだろうか。それとも、十分すぎるほどにかわいがってもらっていたことが、いつのまにか自分の中であたりまえになって、甘えになっていたのだろうか。
 そうだとするのなら、より一層、彼の言うとおりだ。思い直すことで、行人は思考を前向きに切り替えた。
 話し合うことは得意ではないけれど、それでも、いつまでも逃げているわけにもいかない。
 生徒会の雑務といった新しく覚えるべきことに気を取られているうちに、下手をすると選挙が終わってしまいそうだ。
 そうなると、最悪の想像ではあるけれど、篠原に言われたように、メンバー刷新を理由に、生徒会から手を引かされる未来もあるわけで。

 ――あれ、なんか、これ、成瀬さんは、「高藤が悩んでるから」みたいなこと言ってたけど、本当にそろそろやばいんじゃ……。

 前向きに切り替えたはずだったのに、とんでもない事実に直面してしまった。自己嫌悪にまみれた溜息が、止める間もなく零れ落ちていく。
 誰のせいでもなく、先送りにして棚上げしていた自分の落ち度でしかないのだが。目前に見えてきた寮を見上げて、でも、と行人は少し考えた。

 生徒会を手伝いたいのは、高藤の手助けになれたらいいなと思ったからだ。自分にしては似合わないくらいの献身的な理由だと思うけれど、生徒会に入りたい理由として、本当にそれだけでいいのだろうか。
 成瀬を見ていたら、わかる。生徒会は、この学園の生徒たちのことをちゃんと考えて、生徒たちのためにとっての良い学園をつくり、守ってくれている。
 じゃあ、自分は、その生徒会に入って、この学園のために、なにをしたいと思うことができるのだろうか。
 そのあたりのことを示せないうちは、なにを言っても、ただのわがままになってしまうのかもしれない。

 ――高藤は、成瀬さんたちがつくったここを守りたいって言ってたけど。

 本当に一個人の意見として表明してもいいのであれば、そうであってほしいと行人は思っている。成瀬がつくってくれた学園の基盤で、そうして、自分が安心して過ごすことのできる大前提だからだ。

 ――でも、それって、あくまで、俺がオメガだから、なんだよな。

 卑下するわけでも、特別ぶるわけでもないけれど、事実として、オメガは少数派だ。
 その少数派の意見は、どこまで尊重されるべきものなのだろう。実際に、似た恩恵を得ているベータは享受しているが、一部のアルファはずっと反発をしている。

 だから、そういうことなんだよなぁ、と改めて気がついた。すべての生徒が喜ぶものなどないのだろうけれど、その前提の上で、覚悟を決めて選び続けなければならないということだ。

 ――篠原先輩は、成瀬さんの勝手っていう言い方よくするけど、それもそういうことなんだよな、きっと。

 誰になにを言われようとも、トップに立つあの人が、あの人自身の責任で選び続けているということ。だから、喜ばれることもあれば、同じだけ敵をつくることもある。
 その覚悟が、自分にはあるのかということが大切で、高藤の目にはきっとあるように映っていないということ。

 ……たしかに、ちゃんと話さないといけないんだろうな。

 そうでないと、自分の分の重荷も高藤に背負わせてしまうことになる。その可能性に、行人はようやく気がつくことができた。
 高藤のために手伝いたいというのは、口当たりは良いけれど、理由としては決して良くはない。



「あ、榛名ちゃん。今日も遅かったんだね。生徒会おつかれさま」
「荻原。あ、四谷も」

 一年生のフロアの談話室の前で声をかけられて、行人は立ち止まった。茅野がここで雷を落としたとかで閑散としていた時期もあったが、夏休みが明けてからは、ぽつぽつと寮生たちがまた集まるようになった。
 あの一時期のようなギスギスとした雰囲気は鳴りを潜めているので、行人個人としては安心している。
 今日は、荻原と四谷のふたりだけのようだけれど。
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