パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 11 ⑤

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 どちらも篠原に聞いた話だ。
 やんわりと聞き出したのは自分だが、言ったあとに喋り過ぎたという顔をしていたので、八割方は事実なのだろう。
 あいつに言うなよと念を押されたが、べつに言うつもりもない。
 ただひとつ、なるほど、と納得しただけだ。選ぶ必要もないくらい相手がいるという前提ではあるのだろうが、オメガを抱こうとしない選択としては、合理的で信用できる。

 ――まぁ、逆の立場だったら、俺もそうするな、実際。

 おまけに、この一ヶ月ほど様子を見てみたが、自分のことを言いふらす気配もなければ、近しい相手に話した気配もない。
 最低限、あの取り決めは信用してもいい。気に食わないことはいくらでもあるものの、そう成瀬は判断を下していた。
 まぁ、なにかのきっかけで反故にされる可能性は念頭に置いておくべきだろうが。
 なにせ、「おもしろい」、「暇つぶし」以外に、本当に向原に利点はないことだ。

「大変だな、アルファも暇そうで」
「暇なんだよ、実際」

 さしておもしろくもなさそうに笑って、向原が煙草をもみ消す。そうして、そのままの調子で、だから、と笑った。こちらを見ようともしないまま。

「楽しませろよ、少しくらい」


 そういった冷めた目を、ずっとしているやつだった。
 なんでも持っていて、なんでもできるから、なにもかもをつまらないと思っている、傲慢なアルファの見本のような男。
 息を吐くように他人を操ることはあっても、他人に意志を強要されるようなことは有り得ない。自分がしたいことをしたいようにしているだけで、自分がやりたくないことは、梃子でも動かない。
 そういう男だったから、「お互いさま」、「都合が良い」、「利害の一致」で、済ましていたはずだったのに、いったいどこで違ってきてしまったのか。


「……そのままでよかったのにな、本当」

 これも、幾度となく思ってきたことだった。篠原も茅野も、向原も自分も変わったと言う。まるくなって安心したと言うし、よかったと笑う。
 けれど、自分はよかったとはまったく思うことはできない。返せるものもなにもないのだから、本気なんて見せないでほしかったし、期待なんてしないでほしかった。
 そうだったら、ここまでにはならなかったに違いないのに。
 鬱屈とした気分のまま、取り出した薬を呑み込む。週末にはまた病院に顔を出さないといけないと思うと、それもまた気が重かった。
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