パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 10 ④

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 本当に、いまさらではあるけれど、わかっているだけで、どうにもできていないことが自分には多すぎるのだと思う。
 なんだか、十分にも満たない問答で、改めて思い知った気分だった。

 ――いや、篠原先輩が言ってることは、本当に、ぜんぶ正しいと思うんだけど。

「まぁ、最近、またあんまり顔出さなくなってるけどな。この分だと、選挙終わるまで来ねぇかもな」
「え……、それ、いいんですか」

 自身の覚える好き嫌い、得意不得意はさておいても、副会長ではないのだろうか。

「よくはねぇけど。俺らがいないタイミングで最低限はやってるから、文句も言いづらいというか。それに、俺が言っても聞かねぇし」

 半分諦めたふうにそう言った篠原が、まぁ、と小さく溜息を零した。

「会長がなにも言わないからな」
「……」
「いいってことなんだろ」

 なにも言えなくて、行人はかすかに目を伏せた。篠原も、それ以上は言わなかった。

 向原という先輩のことを、行人はほとんど知らない。もちろん、有名な人だから、表面的な情報であれば知っている。高藤や、あるいは成瀬から漏れ聞く話で、自分が思うほど怖い人でも、理不尽な人でもないのだろうともわかってはいる。
 知りたいのなら、自分の目でしっかりと見たほうがいい、と。高藤にそう助言されたこともあるし、一利あるとも思ったけれど、でも、べつに、怖い人のままでも構わなかったのだ。自分の好きな人たちを大切にしてくれるのなら、それで。

 ――もう、元に戻ったんだって思ってたのにな。

 生徒会に戻ったことが答えだと勝手に安心していたのに。言葉になりきらない感情を抱えたまま、行人は、篠原に続いて生徒会室の扉をくぐった。





「なんか、榛名。めちゃくちゃ顔死んでるけど、大丈夫?」
「……うん」

 大丈夫、と口の中でもごもごと呟いて、行人は伏せっていた顔を上げた。前の席に腰かけた四谷が、「やっぱり大変なんだ、生徒会」と興味半分心配半分といったふうに呟く。
 昼休みのほとんどを机に突っ伏していたのが気になって、授業開始前に声をかけにきてくれたらしい。
 はは、と笑って、小さく欠伸をひとつしたところで、行人はぐっと肩を伸ばした。

「大変っていうか、覚えることが多くて、純粋にそっちで頭いっぱい。俺、要領悪いし」
「あぁ、まぁ、それは、ねぇ」

 いっさい否定することなく笑った四谷が、言ってから「しまった」と思ったのか、取ってつけたような励ましを寄こした。

「それは、まぁ、高藤に比べたらしかたないんじゃない?」
「……そうだな」

 それは、まぁ、頭のつくりも、そもそもの経験値も違うだろうよ、としか言いようがない。
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