パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 9 ③

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「どっちでもいいよ、べつに」

 いまさらだと言えば、それもそうかとあっさりと納得する。本当に、いまさらだ。近寄ってきた茅野に、「なに?」と軽く吸い差しを持ち上げる。

「吸うの?」
「おまえたちと一緒にするな。俺は吸わん」

 それとここは喫煙所じゃないんだぞ、と続いた苦言に笑って、短くなってきたそれを銜えた。

「それにしても珍しいな。あいかわらず向原はばかすか吸っているが……」

 とまで言ったところで、茅野が言葉を止めた。なにを考えているのかわかって、うんざりと否定する。

「貰ってばっかりだったから、これに慣れてるってだけ」
「……」
「本当、それだけ」

 吸わないくせに、匂いで誰と同じだのなんだのと銘柄を当てなくてもいいだろう。
 吸う気をなくして、小さく息を吐く。こめかみに指をやると、茅野が問いかけてきた。

「なんだ、また頭でも痛むのか」
「痛いよ。ふつうに激痛」 

 指の腹で押さえたまま、そのままを成瀬は告げた。これもいまさらなんでもない顔をしたところで、意味のないことだ。
 量を増やしたところで、一時的に効いている気がするだけだと言っていた先生の忠告はあたりまえに正しかったのだと痛感してはいる。

 ――休みのあいだは、まだ大丈夫だったんだけどな。

「どちらかといわなくても、悪化させてるんじゃないのか。それは」
「いいんだよ、紛れたら」
「匂いが? それとも、罪悪感か?」
「そういうわけでもないけど。息抜き」

 苦笑で応じて、携帯灰皿に吸殻を入れ込んだ。

「もう、選挙活動も始まるから。――そういや、出るかなどうかなって言ってたけど、出るって、呉宮。ちょっと悪いことしたな」
「悪いこと、か」
「うん。まぁ、自分をすっ飛ばされたら、いい気はしないだろ」

 それはそうだな、と頷いたあとに、だが、まぁ、しかたないだろう、と自身が皓太に諭したことと同じことを茅野が言う。
 だから、成瀬もまた、そうなんだけどな、とだけ返した。なんだかんだと情の深いところのある幼馴染みと違い、気に病んでいるというほどのことではない。ただの世間話だ。

「こういうことを聞くのは、どうかと思うが」
「ん?」
「効かないだなんだと言っていたのは、まだ解決し切ってない話なのか?」

 そう簡単に解決するかよ、とも、そもそも、薬の種類の問題じゃないで切り捨てられてるんだよ、とも言えるわけがない。
 しかたなく、成瀬は事実の一端を口にした。

「病院は行ってる。なにも手を打たないでいるほど、自分を信用はしてないし」

 あたりまえのことだというふうに苦笑する。この不調の原因が、自分のメンタルだとは認めがたかった。
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